前記事で「マヨイガ」の事を書きました。(リンク「マヨイガ記事」)

山中に迷い込んだ者の前に突然現れるマヨイガ。

遠野地方に伝わる伝説、山岳信仰から派生した異界譚というのでしょうか。

マヨイガのほうが人間を選んで現れるものなのか、否か。

そこがまた異界探幽物語の魅力でもあります。


「春立つ」(川上弘美/著)も一種のマヨイガのお話ですよ…、

とコメントをいただき、早速本を購入、読んでみました。







主人公は中年の女。
居酒屋【猫屋】の女将をして生計を立ています。

彼女には不思議な幻想的な「過去」がありました(過去の無い人間は何処にもいませんよね…;)、

ある時、店の常連客相手に彼女は摩訶不思議な「過去」を語り始めます。






【あれはいつ頃の話だったか…私は若い頃ね…】

雪国の小さな町に生まれ育った彼女は、
そのまま生まれた町で成人し、慎ましく生計を立て平凡に暮らしていましたが…、

夕方になると町の端から端までを歩く事を日課にしていました。
ある時、足を滑らせ雪の斜面を滑り落ちてしまいます。

そこには一軒の家がありました。

家には一人の若い男が住んでいて…

端的に言えば、彼女は男と恋に落ちます。異界の人間(?)と関係を持つのです。





ところが、春が来ると男は彼女を現実世界へと返します。

彼女は…次の年も、その次の年も、滑り落ちた場所へと向かいます。

男に会いに自ら異界へと赴くのです。

(遠野物語のマヨイガとは違い)彼女が望めば、
その家は(言い換えればその男は)彼女の前に必ず現れてくれる…。


ただし、まるでそれが規則か決まりのように、春になると彼女は毎回現実に返されてしまうのです。



現実世界で彼女は必死で民間伝承を調べ、読み漁ります。

異界の物怪が女をさらう妖忌譚は、実は日本各地に伝え残されていること。
さらわれた女達が必ずしも、自分を囲った物怪を嫌ってはいなかったこと。

勇者によって救われた形となった女は、往々にしてその者と婚姻する事等々…。



ある時、繰り返し現実世界に返される寂しさに耐えられなくなった彼女は、

彼女はどうしたのか?




【「二度と行かなかったよ。」<本文より抜粋>】



ずっと一緒に暮らせないのなら、それは愛されてないのと同じだと。

そして異界と決別すべく、彼女は一人で町を離れます。
居酒屋の女将として生き、中年に至るのですが…






物語のラスト…中年となった彼女の最終選択は…

うーん…、伏せておきましょうか^^

ほっと心が温まる、思わず笑みがこぼれるような素敵なラストでした。


女性であれば…誰もが心の片隅で抱く切ない願い、
とても共感できる作品でした。






追記:イメージイラスト、久しぶりに力入れて描かせてもらいました。本を教えてくださった方、ありがとうございました。


それではまた。



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