「それでは第八位入賞、bar visionのヤス子ママのスピーチです。」


ステージで泣き真似を始めるヤス子ママ。


「わ、わたしは、ぐすん。SGM48に二期生として入り・・・ました。ヒック。当時、一期生にはまいどんのママとプラチナムのエリコママがいて、二人はいつも・・・ヒック。いがみ合ってました・・・。」


会場に笑いが起きる。


「いつも・・・SGMシアターの公演の前には、どちらかの六尺が無くなって、本番前はいつも楽屋でお互いのせいにして、大喧嘩していました。結局見つからなくて、いつもどっちかが・・・たまにスカートから見えてました。結構・・・大きかったです。エリコママの。」


再び会場に笑いが起きる。


「練習中も、あまり空気がよくなかったし、私は悩んでいました。そんな私をいつも励ましてくれていたのがフレンドのママでした。年下のママなんだけど、いつもいつも私を励ましてくれてました。センター争いをして、大変なのにこんなわたしのことを・・・そんな中、事件は起きたのです。プラチナムのママとまいどんのママ、二人の六尺が同時になくなったのです!そして、わたしは見てしまったのです。公演のあと、忘れ物に気がついて、私はロッカーに戻りました。すると・・・フレンドのユウタロウさんが!なんと!まいどんのママの六尺に顔を埋めてたのです!」


会場は爆笑の渦に包まれた。


「意外とデブ専なんですね・・・あ、ここから先は本人の名誉のために割愛しますが、きっと、わたしを一生懸命励ましてくれてたのは後ろめたさがあったからなのでしょう。今回は8位という順位でしたが、もっともっとステップアップして、私も周りのメンバーを励ましたり出来るようなアイドルになっていきたいと思います。わたしを選んでくれたみなさん、ありがとうございます!また次回選挙があったら、順位が少しでも上がるように頑張りたいと思います。ありがとうございました!」


先日行われた総選挙のスピーチ映像を映しているリビングのテレビ。


「いやもう本当最高だよね。このスピーチ。しかもその場で考えたんでしょ?これ。すごいわーさすが我らがママだわ。」
「もー、恥ずかしいからやめて。てか、これ、オイシイ。どうやって作ったの?」


ダイニングテーブルに並べられた料理をつまみ食いするヤス子ママ。


「あーこれはね、翔君が作ったやつなのよ。だから帰ってきたら聞いて?もうそろそろ仕事終わって帰ってくると思うけど。」


壁にかけられた洒落た時計は8時20分を指していた。


「彼氏、いつも遅いの?」
「最近残業多いらしくて。」
「ねーリョーコさん?これどうやって再生するんですか?」


リビングで再びママのスピーチを再生しようとする賢司。


「あーそれね、コツがあんのよ。海外のやつだからあたしもよくわかんないのよ。」


オーディオは海外製か。


「それも彼氏の趣味なの?」
「そー。オーディオにこだわりがあるとかベタよね。あ、ママ、ベランダでタバコ吸えるから。吸いたかったらどううぞ。灰皿も置いてあるから。」
「あ、うん、ありがと。」


新宿の高層ビル群が見渡せる12階の角部屋。


良い景色ね。嫌味なくらい。


タワーマンションに海外製のオーディオ。

そしてホームパーティー。


オカマの勝ち組ってこういうこと言うのよね。


ヤス子ママが景色を眺めながらタバコを吸っていると、

窓が開く音がして振り返った。

すると賢司がタバコを持ってベランダに出てきた。

「うわーすごい景色いいですね。」
「そうね。でもあたし高いところ苦手。」

「そうなんですか?」

「うん。地上に近い方がいいわ。」
「でもそれちょっとわかります。おれも二階以上は住んだことないです。」
「そうなんだー。」


しばしの沈黙。


「あの・・・。」

「なに?」

「ママって・・・彼氏とかいるんですか?」
「いないけど、なんで?」


再び沈黙。


え?なんだろ?


「あの、おれ、ママのこと好きなんです!」

「やーね。口説いてるの?」

「真剣にお付き合いしたいんです。」


またまた・・・え?マジ?


賢司の目は真剣だった。


「え・・・っとまたずいぶんと・・・急ね。」
「すいません。」

「若い子にそういうこと最近言われてないから嬉しい。ありがとー。」

「あの、体目的とかじゃないんです。やりたいんじゃなくて、ママの人間性っていうか。そういうところに惚れたんです。」


体目的じゃないのね。

いや、別にそういうの期待してたわけじゃないし、

期待してなかったわけでもないけど。


「賢司君、いくつだっけ?」
「僕、25です。」
「そっかー。なんでまた35のオバサンなの?他にもいるでしょう?素敵な男の人。んっ!」


いきなりのキス。不意をつかれて動けなかった。

ゆっくりと離れる25歳の綺麗な肌。

「あ・・・すみません。我慢、できなくて・・・。」
「え?あ・・・そう。も、戻ろうか?」

「そ、そうですね。戻りましょうか・・・。」


頭が真っ白のママ。

「あれ~?ママ早いね~。ゆっくりしてくれてて良かったのに。」
「外寒くって。さすがタワーマンションね。上空ってまだこんなに寒いのねー。」


亮平の顔はなんだかニヤけていたが、

それに気づいたのは賢司だけだった。

夜も更けて、お開きの時間。


「ごめーん、ママ。片付け手伝ってくれない?」
「あら、いいわよ?」

「じゃあ、僕も。」
「賢司は大丈夫。」


賢司にウィンクする亮平。


「あっ、えっとじゃあ・・・お先に!」
「はーい、気を付けてね。今日はありがとねー。」

「恭彦さん・・・また。」


え・・・?


「ああ、またね。賢司君。」


なんで今ドキっとしたのかしら、あたし・・・。

「さてと、何から片付けたらいいのかしら。」


ソファーから立ち上がるヤス子ママ。


「あ、やっぱいいや。翔君、ママの相手してて。あ、お茶飲む?」
「え?でも片付け。」
「いいのよーママはリビングで座ってて。」


え?いいの?


「あ、うん。」

何かしら?手伝うんじゃないの?

「あ、ママ、ちょっとね、相談があってさ。」

「あら翔君相談なんて珍しいわね。」

「いや・・・あの亮平のいつものおせっかいなんだけどさ。」
「おせっかい?」
「そーなんだ。あの子、賢司。どう?」


どう・・・って?


「男としてよー。ベランダでキスしてたでしょー?」


キッチンから聞こえる亮平の声。


「え?」


見てたんだ。


「ああ。不意討ちだったけど。って・・・あっ!!」

「気づいた?ごめんね。おれはおせっかいなんじゃない?って言ったんだけどさ。」


亮平がお茶を持ってきた。


「あたしね、ヤス子ママが全然恋愛に興味示さないじゃない?だからおせっかいとか思いながらもさ、ママのことを好きな賢司をね、引き合わせてみたわけ。で、どーなのよーママ。賢司、イケメンでしょ?なかなかいないわよ?ああいうピュア系の。かと言って草食でもないし。しかも性格がとってもいい子なのよ!」
「うん、それはわかったけど、25歳でしょー?あたし年下は・・・。」


お茶をすする35歳、ヤス子。


「あたしね、思うのよ。ママには絶対あーいう年下ちょっと抜けてて守ってあげたい系がぴったりなのよ!とりあえずね、一回だけでもいいからデートしてあげて?あの子本気なのよ。」
「え?でも・・・。」


恋愛ってもうしないつもりだったし・・・。


「え、でも・・・じゃないわよ!老後考えてないでしょ?」

「老後ってまだあたし35歳だし。」

「35歳ってオカマのピークよ。老後の下地、ベースメイクができる最後の歳なの!スッピンで生きるのって辛いわよ?」

「え・・・すっぴん?」

「そうよ。それにママ?忘れたわけじゃないわよねー?あれ、言っちゃおうかなー?」


あれ・・・?あっ!!それはダメ!!」


「ちょっと!リョーコ!あんたいい加減になさい!デートすればいいんでしょ?するわよ!」
「うふふ。そう?ママがそこまで言うなら。じゃあママの連絡先、賢司に教えとくわね。」


鼻歌を歌いながらキッチンへ戻るおせっかいゲイ、亮平。


「わかったわよ、もう・・・。」
「あら?なげやりー?あれ~?」


地獄耳の女、リョーコがキッチンから顔を覗かせる。


「なげやりじゃありません!」
「そう?ならいいんだけど。」
「ねえ、亮平?あの話って何のこと?」


話がよく見えてない翔。


「んー?ママとの秘密のお話だよ。ね~?ママ?」

あれは・・・言えない。人に話せないわ。
リョーコめ。


いつもあの話を盾に脅してくるんだから。


若い子とデートかー。

一番面倒なのよね。

悪い子じゃなさそうだから無下にもできないし。

いっそ気が変わってくれればいいのに・・・。
           1year,136days ~ヤス子ママの恋の予感?~