6月13日に「JR九州が九州新幹線長崎ルートへのフリーゲージトレイン(FGT)導入を断念」という報道が流れました。
(FGT-9001・熊本)
FGTは新幹線の1,435mm軌間と在来線の1,067mm軌間を行き来することができる軌間可変電車で、九州新幹線新鳥栖駅と九州新幹線長崎ルート武雄温泉間を在来線の長崎本線・佐世保線経由で結ぶことで、博多〜長崎間の直通運転を目論んでいました。
フリーゲージトレインとしてはスペインのタルゴが有名ですね。日本ではタルゴ社からのライセンスを1993(平成5)年に住友金属工業(現・新日鐵住金)得て、翌1994(平成6)年から鉄道総研で研究を開始しました。
当時、整備新幹線の延伸に当たって以下の方法が検討されていました。
1:フル規格新幹線で建設
これは通常の新幹線です。
2:スーパー特急方式
新幹線の路盤上に1,067mm軌間を敷設して、在来線規格の車両が200km/h運転をするもの。最高速度が200km/hなので新幹線に定義されます。北陸新幹線や九州新幹線鹿児島ルートで一時的に決定しましたが、結局フル規格新幹線に切り換えられて開業しました。
3:ミニ新幹線
在来線を1,435mmに改軌して、新幹線から在来線サイズの車両を直通させるもの。整備新幹線では実現しませんでしたが、同じコンセプトで山形新幹線と秋田新幹線が実現しています。
4:フリーゲージトレイン
在来線を改軌せずに、軌間可変電車で直通させるものです。
第一次試作車両はGCT01形は1998(平成10)年に製造されました。
(GCT01-1・小倉工場・2007年2月18日)
1999(平成11)年に山陰本線で走行試験の後、アメリカ合衆国コロラド州にあるTTICプエブロ実験線で高速耐久試験と軌間変換試験を実施しました。
2001(平成13)〜2006(平成18)年にかけて国内各地で試験を実施。在来線では最高速度130km/hを達成しましたが、新幹線区間では台車の振動などの問題もあって210km/h程度に留まりました。コロラドでは最高速度246km/hを達成していますが、これは地盤、路盤などの差によるもののようです。
一次試作車は試験終了後、JR四国多度津工場に移動しました。
(GCT01-1・多度津工場・2009年5月23日)
GCT01-1は敷地外から見ることができました。
(GCT01-2・多度津工場・2009年5月23日)
GCT01-2、GCT01-3も一般公開時に姿を見ることができました。
一次試作車は2013(平成25)年7月に解体されたようです。
一次試作車の試験と並行して二次試作車GCT01形200番代の開発が進められ、2007(平成19)年12月9日から九州で試験を開始しました。
(GCT01-201・讃岐塩屋・2012年6月11日)
二次試作車では台車の軽量化を行って振動対策と速度向上を図りました。
その結果新幹線区間での最高速度270km/hを達成することができましたが、在来線区間では曲線区間の横圧が大きすぎて最高速度が80km/h程度となったため台車を改良。2011(平成23)〜2013(平成25)年まで予讃線で試験走行を行って、性能を確認しました。
二次試作車でフリーゲージの技術確立と基本的な耐久性能の確保に目処がつきました。
続いて三次試作車FGT4両編成を2014(平成26)年4月に製造しました。
(FGT-9001・熊本)
FGTは車体を軽量化して、軸重的にはフル規格新幹線並みとなりました。ただし最高速度は引き続き新幹線区間270km/h、在来線区間130km/hとなっています。
FGTでは性能確認後、軌間可変を繰り返す3モード耐久試験を実施。3年間60万kmを走行してフリーゲージトレイン実用化への目処をつけて、2022年に開業する九州新幹線長崎ルートへの投入を目標としました。
2014(平成26)年9月17日にはJR西日本が、北陸新幹線敦賀開業時に関西と直通するためのフリーゲージトレイン投入に備えて、10月から模擬台車を使用した軌間変換試験試験を敦賀駅構内で行うことを発表しました。
(敦賀・2015年12月1日)
写真右側にちらっと見えているのが模擬台車です。
これは降雪地帯での軌間変換についての試験をすることが主目的で、当時は2014(平成26)年度中に試作車の設計と製作に着手。2016(平成28)年度から試作車の走行試験を始めるとしていました。
しかし3モード耐久試験で約3万3,000km走行後にオイルシールの欠損や、滑り軸受と車軸の接触部に摩耗痕が発見されたため試験を中断。原因究明と対策に2年ほど費やしました。そして2016(平成28)年12月から2017(平成29)年3月まで1.1万kmの走行試験を実施して対策箇所の確認を行い、今後耐久走行試験を再開するかの検討を行っていました。
しかし、これから60万km走行しても試験終了は2020(平成32)年で、九州新幹線長崎ルート開業の2年前。
時間的にもFGT導入は間に合わないと言うことで、暫定的にフル規格新幹線と在来線のリレー方式として開業し、国交省はFGTを2025年に導入する構想を示しました。
しかしJR九州はFGTのイニシャルコストとランニングコストが通常の新幹線電車よりも高いことに難色を示して、断念の意向を固めたものと思われます。
一気に黒歴史化しそうなFGT。では北陸新幹線に投入されるのか? しかし北陸新幹線敦賀開業も2022年度なので、こちらも到底間に合いません。しかも新大阪〜敦賀間のルートも2031年度に着工する見通しとなったので、つなぎでFGTを導入するかは微妙な感じですね。やっぱり黒歴史かな?
近いうちにFGTの処遇は明らかになると思います。でも現時点での未来はあまり明るくなさそうです。
もしかするとFGTは四国鉄道文化館で保存されているGCT01-201しか残らないかも知れませんね。
(GCT01-201・四国鉄道文化館・2014年11月16日)