「夏休みの課題を受け取ってきたぞ」


「……まだ増えるんだ」


 蝉の合唱が木霊する、良く晴れた日の昼下がり。黒のテーブルに置かれた書類の束に、恭介は盛大に溜息を吐いた。額に手を当て、睨む様にして書類を見詰める。その手元にあるのは、何時もの鍵付のノートではなく、普通の学習ノート。そして周りには、教科書や辞書の類が散乱している。殆ど汚れの無い教科書の端を指先で弄りながら、彼は口先を尖らせた。


「これで補習に出なくて済むんだろう? 文句を言うな」


 その様子に肩を竦めると、更科は肩に掛けていた鞄を降ろした。それを床に落とし、手にしていた郵便物をテーブルの上に置く。恭介はテーブルに頬杖を突いた。


「まあ、良いけどね。どうせ更科に手伝ってもらうつもりだし」


 郵便物を仕分ける更科の手が、ぴたりと止まった。眉を寄せ、視線だけを恭介に向ける。


「……確定なのか、それは」


「当たり前じゃない」


 当然と言わんばかりの、きょとんとした表情。呆れた様に肩を竦めると、更科は郵便物の仕分けを再開した。手元に目を落とし、不要なチラシやダイレクトメールを手際良く取り除いていく。その中で、彼は淡いオレンジ色の封筒に目を留めた。


「ああ、それと――」


 封筒を取り上げる。差出人の名前を確認すると、彼はそれを恭介へと差し出した。


「千里さんからの手紙だ」


「父さんから?」


 恭介が目を丸くした。ペンを置き、手を伸ばす。更科から手渡されたその封筒を丁寧に開封すると、彼はその中身に目を通した。外国の風景のものらしきポストカードが数枚と、便箋。ポストカードを脇に置き、便箋を広げる。


「――『恭介へ。久しぶり、元気に過ごしてるかな? 父さん達は元気だよ。この街の暮らしにも漸く慣れたし、研究所での仕事も波に乗ってきた。母さんと一緒に夜遅くまで頑張ってる。休日は辺りを散策したりしているよ。とても綺麗な街でね、ポストカードを入れておいたから、後で見ておいて。今回この手紙を書いたのは、恭介に父さん達の最近の事をお知らせしたかったのと――ちょっとお願いしたい事があるからなんだ。恭介のお友達を数人、此方に送って欲しいって研究所の人に頼まれてね。まあ、ただの観光じゃなくて、お仕事を手伝って欲しいからなんだけど。勿論渡航費用や宿泊・食事等の手配は此方でするし、報酬は出すとの事だよ。時間が空けば観光もさせて貰えるってさ。詳しい事はメールで送っておくから、それを参照してね。分からない事があったら、メールなり電話なりで連絡して欲しい。それじゃ、宜しくね。最後に……身体には気をつけて。わがままを言って圭吾君を困らせたりしない様に。父さんより』……わがままなんて言ってないよね、僕」


 更科は無言で恭介から目を逸らした。それを横目に、恭介が脇に置いたポストカードを取り上げる。笑みを浮かべながら写真を見詰める恭介をちらりと一瞥すると、更科は溜息を吐いた。


「メールを確認すれば良いんだな?」


「ああ、宜しくね」


 にこりと微笑む。頭を掻くと、更科はリビングから出て行った。