「ただいまー!!!」

「おかえり…エリ」

ギューーーーーーーーーーーーーー……

笑顔でハグをして迎えてくれるレンタル彼氏。

…癖になりそう。。。

「ごめん…僕も、今さっき帰ってきたばかりなんだ。一緒に夕飯作るの手伝ってくれる?」

「もちろんいいけど…時間も遅いし、もし疲れてるなら…デリバリーでも取る?外食でもいいし」
「ダメ。エリには僕の手料理を食べさせたい」

…こう見えて、けっこう頑固なんだよね、ドギョンスさん。食べさせたがりがなかなかの域に達してる。
考えてみたら、昨日から「ダメ」って、何回言われたか、わからないもん。

エプロンをしてメガネをかけて。
いつもの料理人スタイルに変身したレンタル彼氏。
「今夜は、すぐに出来るチゲにしよう。エリ、冷蔵庫から野菜と豆腐出してくれる?」

「はーい」

慣れた手付きでサクサク食材を切っていく。その動きには、迷いが全く見られない。

「ねぇ、もしかして……ギョンスの本業って…料理人?」
思わず、そう聞いてしまったら

「…僕の本業が…気になるの?」

質問に質問で返された。

そっか…レンタル彼氏の素性を根掘り葉掘り聞くのはタブーだよね。

「あまりにも…料理が上手だから。あ、そう。お弁当もとても美味しかったよ。ありがとう。」

「料理は趣味なんだ…。エリのその"美味しい"って可愛い笑顔の為に作ってる」

にっこりと微笑んで、やんわりとわたしの質問をかわしたギョンス。

……隠したい…何かがあるんだね…ギョンス。

そうよね。たった3泊4日のレンタル業務のために、自分の素性を契約相手に明かすわけ、ないもんね。

わたしたちは…どうせ明後日までの関係なんだから…。

「…エリ?どうしたの?夕飯出来たから、早く取り皿出してもらえる?」

「あ…うん。ごめん、ちょっと考え事してた」
「さぁ、熱いうちに食べよう。出来上がりが一番美味しいから」

食器棚からお皿を出して並べると
ギョンスが鍋をダイニングに持ってくる。

食卓に2人で向かい合い…。


「「いただきます」」

ご馳走を目の前にして、2人の声が見事にハモるのが心地よい。

ギョンスが当たり前のように取り分けてくれて。
「たくさん食べてね、エリ」

…こんな笑顔を見せられたら。
マジで惚れてまうやろーーーーーーーー!!!!(>///< )

いちいちキュンキュンが止まらなくて。
椅子から転げ落ちそうになるのを必死で耐えるわたし。

こんな幸せな時間が……
永遠に続いてくれたらいいのに………。



己を戒めるためにも、現実を知った方が良いかもしれない。

「ギョンスは…彼女みんなに、こうなの?」

「…それは守秘義務だから…ごめん」

…ズキン

「そ…そうだよね。変なこと聞いちゃってごめんね」

真面目過ぎるレンタル彼氏に。
釘を刺された。

…かと思えば
「僕は今…エリの彼氏だから。もう余計なこと考えないで?僕だけを感じて?はい、あーん♡」

アーーーン!!!!!༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

「……美味しい…。ギョンスのご飯…なんでいつもこんなに美味しいんだろ…」
「愛情たっぷりだからね」

ズッキューーーーン!!!

甘過ぎるレンタル彼氏に。
過剰に感じまくって、椅子からまた転げ落ちそうになる。


「ふぅ…お腹いっぱいだ…」
ギョンスが背もたれいっぱいに寄り掛かりながら、少し膨らんだお腹をゆっくり撫でている姿が可愛い。

「わたし、お皿洗っておくから、ギョンス、先にお風呂入ってきちゃえば?」
「…ダメ。今日はエリと一緒に入る」

………はい?
…今、なんて言った?

シンクにお皿を運ぼうとしたままフリーズしたわたしに、

「……いやなの?」
「い……いいいい…いやじゃないけどさ!!!!!!!」

お皿を横取りするようにして、シンクへ運び、さっさと洗い始めるレンタル彼氏。

もう……超最高なんですけど(涙)



「脱がせあいっこ、しようか?」

脱衣所で悪戯な笑顔を見せるギョンスに、心臓が暴れだす。

「……えっち/////」
「…エリもでしょ?」

レンタル彼氏のその余裕の笑みが…非常に悔しいです!!!!!

「最初はグー!グー

……え?…はい?

「じゃーん けーん!」

ぽーーーん!!!

パー チョキ

………勝った……。

「あ、負けた(笑)エリ、僕の1枚脱がせて?」

ごくり。(生唾)
…エリ!いきまーす!!!

ギョンスの上着を掴み、ゆっくりとめくり上げる。

な…なんすか…この新手な野球拳プレイは…。
まさかこれも…!!!課金対象?!

ドキドキしながら上着を脱がせると、下に真っ白のTシャツが現れた。
「…次は負けないよ?」

このレンタル彼氏、意外と負けず嫌いのようで。
瞳の奥がメラメラと燃えています。

「じゃーん けーん!」

ぽーーーん!!!

グー パー

また…勝った。
そうなの…わたし…昔からジャンケンが無駄に強い人なの…。

「エリ強いね?…悔しいな」

負け続けて少しテンションが下がってるように見えるギョンスの白Tシャツを遠慮なく脱がせると…。

美しい上半身が露わになって。
わたしは思わず顔を背ける。

「ねぇ……は…恥ずかしいから…もう、やめよ?」
「ダメ。まだ僕がエリを脱がせてないでしょう」

ちょっと!!!優しい仮面を被った、この暴君様を、どうしたらいいのでしょうか?

「…わかったよ。そしたら、もう普通に…脱がせて?はい」

これ以上は心臓が持たないし。諦めて、捕らえられた獲物のように全てを差し出すわたしに。
「エリは…こういう遊び、好きじゃないの?」

少しだけ悲しそうな顔になったギョンスに、胸がキュンキュンして、また膝から崩れ落ちそうになる。

「ギョンス…わたし死にそうだから…もういっそ、一思いにやって?」
「じゃあ、お互い一思いに」

見つめ合いながら、お互いの衣服に指をかける。

……ビクッ

一瞬、肌に直接触れたギョンスの指先がひんやりして、カラダが勝手に反応を示す。

「どうしたの?」

わたしの反応を見て嬉しそうなギョンスは。
なかなか手強い相手だと思った。

カチャ…カチャカチャ…
嗚呼…どうしましょう…興奮と緊張で手が震えまくって…上手くズボンのベルトが外せません…。

「エリと僕…どっちが先に相手を裸にできるか競争ね?よーい、どんっ」

素早くわたしの衣服を剥ぎ取り始める男ドギョンス。

ギャーーーー!!!やーめーてーー!!!
あーーれーーーーぇぇぇえええ!!!

悪名高きお代官様の前でスッポンポンにさせられたわたしと。鉄のベルトで守られたズボンを履いたままのレンタル彼氏。

恥ずかしさの余りに、先にバスルームへ逃げ込むと。

数秒もしないうちに、ギョンスが入ってきて。シャワーの蛇口を捻りながら、

「…僕が洗ってあげる」

そう穏やかに笑いかけてきたけど。

……丸裸なんですけどもーーーーーーーー!!!!!!!
(当たり前か)

ドキドキドキドキドキドキ。
ドキドキドキドキドキドキドキドキ。

ワシャ… ワシャワシャワシャ…
ワシャワシャワシャ……

優しくシャワーをかけられて、当然のようにわたしの頭にシャンプーを始めるレンタル彼氏。

「エリは…こういうの初めて?」
「彼氏と…お風呂とか…入ったことない」

「そうなの?じゃあ…僕がエリの初めてか…嬉しいな」

頭皮をマッサージされるようにシャンプーをされて。その心地よさに、緊張がほぐれていく。

「わたしも…してあげる」
手にシャンプーを出して、ギョンスの頭に触れると。

「実は僕も…初めてだよ。こういうの」

嬉しそうに微笑んだギョンス。

…ッカーーーーーーーーーーーーー!!!!!
このレンタル彼氏さんはどこまでお上手なんだか!!!!!!!

照れが行き過ぎて、さすがに自制がかかる。

そうよ。これは、老夫婦の入浴タイム。
私たちは老夫婦。
お互いを労り合うだけの老夫婦なのよ。

変な気を起こさないように自分にそう言い聞かせてみたら、不思議といやらしい気持ちは消滅して。

落ち着きを取り戻すことに成功しました。

その後、頭、カラダと、遠慮なく洗われて。
迷いのないギョンスの業務的な手の動きに、1ミリのいやらしさを感じる暇もなく。

わたしも負けじと、洗い返して。

脱がせあいっこは失敗したけれど。
洗いあいっこは大成功して。



ぽちゃん…ぽちゃ……


二人で一緒にバスタブに浸かると。

湯気越しのギョンスがジッとわたしの顔を見つめて。

「…エリは…平気なの?…この状況」

…平気って…何が?

その瞳に完全ロックオンされて動けないでいるわたしを。

「…もう限界かも。こっちに来て」

手首をグンと引っ張られるようにしてお尻が浮き上がると。
カラダを反転させられて、ギョンスの膝の間にすっぽりと収まった。

な…ななな…なんですか突然!!!!!

背中と首に感じるギョンス。

「…僕…どうしたらいいの…エリ」

「ど…どどど…どうしたらいいって…そんな突然」
「エリのこのカラダも…顔も…性格も……全てがどうしようもなく愛おしくて……我慢が利かない…」
「……………我慢…しなくても…いいよ…」
「……え」
「…課金でもなんでもいいから……ギョンスの好きなようにして…いいよ…」
「……エリ」

首筋に優しく落とされたキスで、カラダに電流が走った。

抱かれるモード…突入。



………ん?


「…ごめん…僕…のぼせたから…出ていい?」

振り返ると顔を真っ赤にして目がとろんとしたギョンスがヘラヘラ笑いながら意識を半分飛ばしていた。

ギャーーーー!!!ギョンスーーーーーーーー!!!!!!!!(;´༎ຶД༎ຶ`)しっかりしてーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!(;´༎ຶД༎ຶ`)(;´༎ຶД༎ຶ`)(;´༎ຶД༎ຶ`)

外に連れ出し、リビングのソファに寝かせて。
エアコンをガンガン効かせて冷たいタオルで顔を冷やす。

「エリ…ごめんね…こんな情けない姿見せるなんて……」

「いいから…はい、冷たいお水飲んで?」
ペットボトルをギョンスの口に充てると、いやいやと子供のように首を振って。

「…口移しじゃないと…飲めない」

……………はい?

「エリ…して?」

ちょっ!!!このドギョンスさんたらどこまで甘えたさんなのよー//////////////

こうなったら…仕方ない。
水を口に含み、ギョンスの赤い果実のような唇目掛けて、ゆっくりと口をつけて水を注ぎ込むと。。。

「んぐ…ん……」

………ん???

唇を解放されない…この感じは…一体なんでしょうか?
あの…ちょっと…ギョンスさん…?
この…ハムハムは…一体……

…ハムハム
……ハムハムハムハム…
…ハムハム…

その後、そのまましばらくギョンスのハムハムは続き…
わたしの意識が半分遠のきかけたその時。 

突如、唇が解放された。

「……ありがとう…エリ」

にっこりと笑い、目を瞑ったギョンス。

ねぇ!ちょっと!!!今のはなんですか?これで終わりですか?ムラムラがMAXのこの女人をこのまま放置ですか??? 

蛇の生殺しプレイ連続に、わたしの精神がついに限界に達した時。

♪ティロロン
♪ティロロン♪ティロロン

ダイニングテーブルの上に置いてあるギョンスのスマホが鳴った。

見てはいけないパンドラの箱だとわかっていても。精神が限界に達したわたしは、自制が利かず。ディスプレイに目を落とす。

次々と表示されるLINEのメッセージに背筋が凍る。

"菜々緒:ギョンス、今夜はまた帰らないの?"

"菜々緒:やっぱり寂しい。さっきのだけじゃ足りない。もっと沢山したい。"

"菜々緒:土曜日の創立記念パーティー本当に仕事で来れないの?私だけ1人とかマジ、ヤバイよ。みんなから笑われるし、例の独り身疑惑の先輩ですら彼氏同行とか言い出してるんだから!私、耐えられないよ。"

"菜々緒:一生のお願い!パーティーだけは一緒に出てギョンス!!!あなたは私の自慢の彼氏なんだから!!!"


えっ…これって……土曜日の創立記念パーティー…って…まさか…あの菜々緒と…被ってる…って…こと……?!?!

"菜々緒:私たちの結婚のこと、そのパーティーで会社の人に発表しようと思ってるからお願い!!!"

……結……婚…………?

そう言えば…菜々緒、今日は用事があるって、早退してたな…。あははは…。そうか…なるほど。そういうことか。レンタル彼氏が被っているわけじゃなくて、ギョンスは菜々緒の"本当の恋人"なんだ。

こっちが、"仕事"なんだ。


ヤバイじゃん。創立記念パーティーなんかにギョンス連れて行ったら超修羅場じゃんwwwwwww


……神さまはなんて憎い演出を考えてくださったのだろうか。



「ねぇ、ギョンス……」
「…?」
「体調悪いのに、ごめん。でも、教えて?」
「……どうしたの?」
「今、ここでレンタル契約を解約したら、違約金はいくらになる?」
「……突然………何?」
ギョンスの顔が曇る。

「わたし、やっと、わかったの。あなたのレンタル彼氏のやり口は、"蛇の生殺し方式"だって。ギリギリサービスをして、もっともっとと欲しがる契約者にどんどん課金させて、最後に法外な利用料を請求。そうやってレンタル派遣会社が儲かる仕組みなのよね。」
「…………」
「でも…肝心なことはさせない。レンタル物件に女を抱かせることはさせないのよ。だって、それをすると風俗営業法違反になるから。そしてあなたの本当に大切な女性(ひと)も悲しむから。…そうなんでしょう?」
「………何が言いたいの」
「こんな美味しい話なんかないってわかってた。最初から怪しいなって。でも…ギョンスみたいな……理想的な彼氏が現れて…わたし…正気を失った。夢みたいに幸せだった。お金さえ払えば愛も手に入れられるんだ、、、それでもいいって…そう思った。……でも、全てはわたしの勘違いだった!!!!!!」
「…エリ……落ち着いて?」

「…ごめんなさい。初めてだから、勘違いしました。やっぱり…わたしにはレンタル彼氏は無理みたいです。もう解約します。お金はちゃんと払います。だから……今すぐ……どうかお引き取りください……」


……これがレンタル彼氏なんだね。

残酷だね…。


本当にあなたを好きになってしまう前に



わたしからお別れさせてください。


「さよなら…エリ」

……ガチャリ










続く。



*お風呂のシーンは各人脳内処理で画像から服を消し去っていただきますよう、ご協力をお願いいたします。