思ひ出すこと~最終回~ | The Nude Cask

思ひ出すこと~最終回~

まだ二十歳に満たない3人の男達が、何を話しているのかわからないが、チャーイ屋のすぐ隣にある雑貨屋にいた女性に話掛けていた。気だるさが逆に可愛げに見える、こじんまりとしたネパールの女性である。1人の男がその女性に対し好意を持つのか、話し終えると残りの2人の男から肩を突付かれ、それが照れくさいのだろう、ややオーバーに顔を両手で覆い、飛び跳ねるように体を仰け反らせる。その一団がきゃきゃっと、はしゃぎ、満足気に俺の前を通り過ぎる。2人から小突かれながらも、その男の、威風を失わない後姿があった。


安堵感とも親近感とも似た感情が、スコンと胸に落ち、俺は思い切れるこの予感を逃すまいと横を見た。すると、横には、扁平としたチベット系の懐かしい顔、トピーという民族帽を目深に被ったネパール人が、俺と同じように長椅子に腰掛け、くつろいだ様子でチャ―イとともに煙草を吸っている。俺は思い切った。へろっと、そのネパリに軽~く挨拶し、持っていたマルボロとネパリの吸う煙草を交換するよう、交互に煙草を指差した。俺の意図が通じたらしく、トピーは吸い差しのタバコを差し出してくる。俺は仰け反るようにして、大仰に煙草を吸い込み、ネパリをちらと見遣る。すると、そのネパリは、世慣れていない、ぎこちない暖かい笑みを、俺に向けていた。俺も同じように笑い返す。

 

 ククリという現地の煙草は、甘ったるく、そして、重く苦い、靄がかったぼやけた味であった。が、しかし、俺にとっては、モノクロのネパールの風景を思い出す、生涯忘れることのできない最高の後味となる。俺は、何も動こうとしなかった、殻にひたすら引き篭もった、劣等感に満ちた、冷笑的になることで弱さをひた隠しにした、群れることでしか偉そうになれなかった、異質を嫌悪し恐怖し脅えていた俺自身の、惨めな或る日本人の群像を、一定の距離をもって眺められるようになっていた。2月の、異質を呑み干したひどく寒い夕暮れ。それは俺の、正しい未知の道で――であった。