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新宿での被爆量 日本平均値の約半分、世界平均の三分の一

国民が一番、気がかりなのは健康被害が起きるかどうかだ。

「煽り報道」では、

〈都内にいる人たちは、たとえ水道水を飲んでいなくても、空気中の放射性物質を吸い込んでいますから、内部被曝はすでに起きていると考えるべきでしょう〉

〈たとえ微量であってもそれを食べたり、飲んだりすれば、確実に体内被曝する〉

 などと脅す。これらの記述は間違いではないが、何ら重大な事実は述べていない。

 これも以前に当サイトで報じたことだが、地球上のあらゆる人類は、自然界にある放射性物質から発せられる放射線に被曝しながら生きている。その被曝量は世界平均で年間2.4ミリシーベルト、日本では平均1.5ミリシーベルトである。東京を含む関東ローム層地帯では土中の放射性物質の量が少ないため、ほとんどの場所がもともと年間1ミリシーベルト以下だ。

 世界には、ブラジルやインド、イラン、中国などで年間5~10ミリシーベルトも被曝する地域があるが、そうした場所に住む人たちを対象にした大規模な疫学調査で、「がん発生率」や「遺伝子異常発生率」「乳児死亡率」「身長・体重の低減」などは一切見つからなかった。これらの結果から、この程度の被曝では人間の健康や遺伝に影響はないものと推定されているのである。

 つまり、重要なのは「被曝したか、していないか」ではなく、「どれくらい被曝したか」である。

 例えば4月7日現在、東京・新宿の放射線量は0.000087ミリシーベルト/時であり、福島・いわきの2か所の観測点では、この値が 0.0006と0.0015である。仮にこの状態が1年間続いたとすると、新宿での被曝量は0.76ミリシーベルト。いわきは5.26と13.15になる。

 つまり、新宿の値は自然放射線量に比べても小さい(そもそも、この値には自然放射線も含まれていると考えられる)から問題にならないレベルだ。もちろん放射性物質は空中にも土中にもあるから、「都内にいれば確実に内部被曝している」は嘘ではない。「だから何?」という話である。

 いわき市のデータは、自然放射線ならば人が住む地域の世界最高レベルにランクされる数値に匹敵し、それで健康被害は報告されていないとしても、気になるものではある。政府は早急に必要な警告、情報提供をすべきだろう。

※週刊ポスト2011年4月22日号

1960年代の日本 自然放射線による被曝は今より高いとの報告

 自然界にはもともと多くの放射性物質と放射線が存在する。これを自然放射線と呼ぶ。

 日本の自然放射線による被曝は年間1.5ミリシーベルトと述べたが、1960年代の平均的な被曝量は、これよりはるかに多かった。米ソ冷戦時代で、両国が核実験を繰り返していたからである。

 当時、北半球全域にわたり、空気中のセシウム137やストロンチウム90の濃度は現在の数百~数千倍に及んでいた(UNSCEAR 2000年報告書)。

 もちろんこれは自然放射線ではないが、核実験により、世界中が高い放射線を浴び続けた時代もあったわけで、日々の生活で受ける放射線量は、この程度の幅では健康被害は起こさないと考えられている。

※週刊ポスト2011年4月8日号

宇宙飛行士 宇宙半年滞在で原発事故処理職員より多く被爆

原発事故では、通常のレベルにとどまらない被曝が起きることがある。周辺住民にまで高いレベルの被曝が及ぶ最悪の事態もあり得る。そうした例で、どれだけの被曝で、どれだけの健康被害が出たか紹介する。

最初に、福島原発事故のオペレーションに参加した「決死隊」については、発表されている通り、いまのところ健康被害はごく一部を除いてそれほど心配はないだろう。最も多く被曝したのは、3月24日に被曝した作業員3名で、被曝量は170~180ミリシーベルト。

また、ずっと原発に留まって作業している東京電力の社員数名が、政府が定めた緊急時の被曝限度である100ミリシーベルトを超えている(現在は緊急事態なので限度が250ミリシーベルトに引き上げられている)。国際放射線防護委員会は緊急時の限度を500ミリシーベルトとしている。

その他の決死隊は、放水作業で賛辞を受けた東京消防庁の部隊が最高27ミリシーベルト、自衛隊もほぼ数ミリシーベルト、多くても数十ミリシーベルトなので、これは自然放射線や医療放射線と大差ない被曝量といえる。

100ミリシーベルトを超えると、健康被害の可能性が出てくるとされるので、これを超えた東電職員については、交代させる決断も必要かもしれない。

なお、一般の職業でも少量の被曝をしながら働いている人は多い。医療関係者は平均年間0.29ミリシーベルト、建物の非破壊検査などビジネスで放射線を扱う人は0.06ミリシーベルト、研究教育で使う人と獣医療関係者は0.02ミリシーベルト被曝する(線量測定大手の「千代田テクノル」の測定結果)。

また、航空機のパイロットは最大年間5ミリシーベルトと、一般の職業ではかなり被曝しているし、原発職員もおよそ1~2ミリシーベルトくらいだ。

「一般の職業」といえるか疑問だが、宇宙飛行士は宇宙ステーションに滞在すると1日で1ミリシーベルトも被曝するので、半年滞在すれば、今回の事故処理に従事した東電職員より被曝量が多くなる。

実際に放射線で死亡するのは、さらにその10倍以上の被曝量からの問題であり、がんの発生率も、宇宙飛行士や決死隊の被曝量であれば、過去のデータから問題ないとされる(少量の被曝でもがん発生率が上がるという説もあるが、それだと自然放射線の多い地域でもがんが増えないことは説明できない)。

※週刊ポスト2011年4月8日号

放射性物質検出にともなう水道水の摂取制限期間 全国一覧表

福島第一原発事故にともなう放射能被害により、各地で水道水の乳児基準値を超える放射性物質が検出された。摂取制限期間が設けられた日の一覧は以下の通りだ。

【福島県】
飯舘村(3月21日~継続中。3月21日~4月1日は一般基準値超え)
南相馬市(3月22日~30日)
いわき市(3月23日~31日)
伊達市(3月22日~26日、3月27日~4月1日)
川俣町・郡山市(3月22日~25日)
田村市(3月22日~23日、3月26日~28日)

【茨城県】
東海村・常陸太田市(3月23日~26日)
北茨城市・笠間市(3月24日~27日)
日立市(3月24日~26日)
古河市(3月25日)
取手市(3月25日~26日)

【栃木県】
宇都宮市(3月25日)
野木町(3月25日~26日)

【千葉県】
ちば野菊の里浄水場・栗山浄水場(3月23日~25日)
柏井浄水場(東側施設。3月26日~27日)
北千葉浄水場(3月23日~26日)

【東京都】
金町浄水場(3月23日~24日)

※週刊ポスト2011年5月6日・13日号

大前研一氏 当初のレベル5認定時に「甘すぎ。世界の笑い者」

4月12日、政府は福島原発の事故を「レベル7」に引き上げた。報道されている通り、レベル7というのは国際原子力機関(IAEA)が定めた国際原子力事象評価尺度に基づく事故の等級である。0~7の等級で区分され、今回、福島第一がランクされたレベル7は最も重大な事故を示す。過去には1986年のチェルノブイリ原発事故のみが、このレベルとされている。

等級は、主に放射性物質の漏れた量によって決められる。原発の場合、施設の外部に放射性物質が漏れればレベル3以上になり、日本では1999年の東海村JCO臨界事故(※下記参照)のレベル4が最悪の事故だった。

元原発技術者の大前研一氏は、政府が当初、事故をレベル5と発表した時にすでに、「甘すぎる。世界の笑い者になる」と批判していた。つまり急に事態が悪化したわけではなく、今回のレベル変更で明らかになったのは、政府・東電が真実を明らかにせず、事故を小さく見せようとしてきたことだ。むしろ周辺の放射線量は日を追って減っている。

が、これでは一般の国民が「事態が悪くなった」と感じるのは当然だし、もう少し専門的知識を持つ人たちは、事故が悪化したとは思わなくても、政府・東電の隠蔽体質に、さらなる恐怖を感じるだろう。

※東海村JCO臨界事故/1999年、茨城県東海村の核燃料加工施設「ジェー・シー・オー」で起きた事故。誤った手順で加工作業が行なわれた結果、ウラン溶液が臨界状態になり、作業員3名が大量に被曝、うち2名が死亡した。事故調査委員会は、周辺住民を含め667名が被曝したと認定した。

※週刊ポスト2011年4月29日号