今宵は雨月 | HOODのブログ

今宵は雨月




雨音が聞こえたので、缶ビール片手にベランダに出た。

雨足は強いのに、雲間に空が白く輝いている。月だ。半月あまりの月が見えた。

雨に濡れた風景を月の光が映し出す。
雨音が響く中に、閑として月光の足音が重なるようだ。


夕方、近所の空がロマン派の描く空を思わせるような色合いになった。ターナーやドラクロワの風景にある、あの繁栄の果てに破滅の未来に見据えたような色だ。

それを強調して写メで撮影してみた…うーん、違うか。

だが、さすがに雨と月を合わせた風景撮影は難しかった。

そう言えば、忘れていた。謡曲には『雨月』という能があった。詞章を読むと、どことなく晩秋の風景を思わせる。

…紅葉の色にも混じる塵泥(ちりひじ)の、積もる木の葉を掻き集め、雨の名残と思わん…謡曲・雨月より。


東北の秋に同調する私としては、晩秋の冷たい雨と落ち果てた紅葉の対比を思い浮かべる。

しかし、晩夏と呼ぶにも早く、今夜の風景とは全く異質なのだ。妙に官能的なのは夏特有であるとしても、どこか清々としている。

加えて、草むらから夏虫が鳴く。雨音、月の音、虫の音と幾つもの時間の流れが複合しているように思えた。


こうやって静寂が支配して、時間が終わるならば悪くはないな。