立ち別れ…3 | HOODのブログ

立ち別れ…3


現代絵画・故櫻井りえこ氏のスケッチブックに幾度も清書された百人一首・十六番『いなばの山の…』を見ていて、私は正直負けたような気分になったのだ。

これほど思い入れを込めて謡った事はなかったからだ。毎回、形式や音程に意識を向けていて詞章を考える事は少なかった。
一つの歌に想いを込めた彼女の心象が羨ましいと思えた。
そこまで鮮やかな恋愛経験も皆無だし、心もなかった。

最後に、松風の仕舞について素人ながらの見解を述べておく。
平明な型が連続する松風キリ仕舞だが、通常の観世仕舞では『吹くや後ろの山おろし…』で正面側に背を向けて抱き扇の型がある。

ここが一番に難しいと私は思う。背中・尻の演技はテクニックではなくて、肉体を使った表現に近い。型も見えないし、面も使えない。それでいて正面の客には、型の全てが丸見え…舞手には矛盾した箇所だと思う。
特に尻…がね。日頃から意識した稽古をしないと尻が冗長にして鈍く、どうにもならないんだ。