立ち別れ
櫻井りえこ・絶筆『貉』
先日、少し時間が貰えたので県内にある神社まで参拝に出掛けた。
茨城・常陸国出雲大社。最寄りは水戸線福原駅だ。今回の目的は出雲分社境内にあるギャラリーを見るのが目的だった。
追悼企画『櫻井りえこ展』ギャラリー桜林。
作家についての知識は皆無に近かった。
2011年に茨城近代美術館『輝く女たち』で作品に初めて触れただけだ。
その作家が昨年に若くして逝去、他界した事さえ私には大きな興味ではなかった。
どちらかと言えば、出雲社に参拝するための口実だったかも知れない。
常陸国出雲大社は福原駅から少しばかり歩いた山の中腹にある。私は参拝を済ませ、境内のギャラリーに行く。
ギャラリーに入るなり、すぐに私の目を引く作品、強く訴えてくる一点があった。
絶筆の『貉』である。女性の肉体が変化しようとしている姿があった。若い生命が妖怪として永遠に生き続けようと願っているようにも見えたし、生命が尽きようとする我が身の中に、むしろ生命感に溢れた肉体美を賛美し、主張しているように見えた。
男性は、死後を他人の記憶や回想に生きようとするが、おそらく女性は違う。
いかなる手段であっても、自分の生きる形跡や爪痕を残す。それは遺伝子であったり、鮮烈な言葉であったりする。記憶など曖昧な媒体には頼らない。いくら愛していても、思い出して貰わねば無意味ではないか。ゆえに女性は他人に依拠する事が少ない。
作品『貉』は、作者の肉体であったと思う。
我と我が身を絵画に託して後世に生きて行こう…としたに違いない。
だが…もう一つ。
私の興味を強く引き付けた『物』があった。
