痩男…二 | HOODのブログ

痩男…二


痩男の項、崇徳上皇を主人公に扱った能楽作品があれば…と書いたら、さっそくブログ友より知らせがあって、金剛流に『松山天狗』がある事を思い出した。

しかも、この曲は金剛流定番曲ばかりでなく観世流でも試演されていて、学生時代に私は両方とも見ていたはず…であったが、忘却に任せて失念の態である。


『松山天狗』讃岐松山の崇徳陵墓を西行が訪ねる。夜、西行が陵墓にて通夜をしていると、怨霊と化した崇徳上皇が現れ、邪悪な天狗達を集め復讐を命じ、その有り様のうちに夜が開ける。

この物語は、西行・山家集の一句『よしや君、昔の玉の床とても、かからんのちは、何かはせん』を上皇に手向ける事で展開してゆく。

後には上田秋成『雨月物語・白峰』の巻にも描かれて能楽作品的な構成の一巻となっている。


しかし…舞台作品として仕上げると、怨霊と化して国家と民衆を呪う魔王崇徳の裏側が、単純に物語として結末を迎えてしまい、稀代の癒されぬ怨霊と化した崇徳上皇の存在に迫っては来ない。

そこで、この痩男の面である(ようやく、主題に入る)…生命への執着、腐臭すら漂わせながら生きようとする抵抗感覚。このリアルに過ぎる面には、そういう主人公が似合う…私の脳裏に『崇徳上皇』が浮かんだわけだが、もちろん『松山天狗』に沿った面ではあるまい。

単に古典としてではなく現代劇の能面として、この面が生きて行く道があればな…と想像してみた次第。