夜行列車…2 | HOODのブログ

夜行列車…2


憧れの夜汽車に乗れたのは、学生時代に入ってからだ。

ゼミのフィールドワークや実家への帰省で、周囲の迷惑も顧みず夜行を選んだ。

すでに夜行列車は斜陽のスジであり、客車列車は僅かだった。

寝台急行『銀河』
特急ではなく、急行料金で関西方面に向かう寝台列車があった。何より『銀河』という響きが良い。
夜行列車に相応しい名前だと思う。


これで京都に向かう。東海道線根府川鉄橋を渡る頃には缶ビールの効果もあってB寝台に身を横たえている。

あとは…ぐっすりと、、と…そうは問屋が卸さない。
駅に到着する度に停車制動、発車の牽引振動があって眠気を破られる。しかも、高速貨物列車に先を譲るらしく各所で待避待ち。

そんな振動を体感しながらも、列車は静岡駅へ付く。ここで運転士が交代したのだろう。眠気覚ましの振動が消えた。

『あっ、運転士が変わったな』

発車、停車の振動は僅かに伝わるくらいになった。言わば、『夜行寝台のプロ・職人』の運転である。深夜、眠りについている百人以上の客を乗せた列車を、一人の男が機関車の前方に厳しい眼差しを向けながら運転している。たぶん、本当のハードボイルドな世界とは、こういう職場で一人の肩に託された責任感に満ちた仕事なのだ…と勝手に想像しながら、私は安心して眠りに入る。おそらく、この列車運転を任された運転士は、夜行寝台に限らず貨物列車の運転でも、丁寧な制御で列車を走らせていたに違いない。

朝、車内アナウンスがあってベットから降りて車窓から外を眺めたら、朝日に照らされた琵琶湖が見えた。やがて、山科を過ぎれば京都は近い。軽い汽笛を鳴らしながら列車は朝の東海道を走る。


こういう旅も、また還らぬ古の夢になってしまった。
夜行寝台の運転職人さんも、すでに退職なされただろう。

どうにも…未来の旅には夢や楽しみがない。