夜行列車
『夜汽車』という文部省唱歌があったと記憶する。ネット検索すれば詳細がわかると思われるが、記憶の中だけで話を進める。もっとも、今は歌詞、歌などは覚えていない。曲があって、聞けば思い出すに違いない。
少年時代の私には、夜汽車は現実から逃避する憧れであった。遠くに汽笛を聞きながら、『あの列車に乗ってみたいな…』と寝床の中で空想を巡らした。
夜汽車で見知らぬ街へ旅に出て、辺境の地でリセットした生活をしたい…最後は人知れず無縁墓地に埋葬されるのが良い。最小限の生活で生計を立てて、どこか地方駅の弁当売りなど、少年の理想的な人生であったと思う。
この人、誰だっけ?
名前があったかな。
『弁当屋さん』と呼んでいたから、弁当屋で良いよ。
現実には、それこそが『夢』だ。実際には経歴や資産を暴かれて、短い人生の終焉を迎える。
もう、夜汽車も来ないし弁当屋にもなれない。
つまらないものだ。
