昨夜の能『砧』
昨夜は能楽の撮影。最初に断っておくが、私の能撮影は趣味ではない。大袈裟に言えば『人生の血肉』である。
しかし、人生的には下流写真家である。私の名が世に出る事は…たぶんない。
さて、昨夜の現場。
代々木能舞台である。見所(けんじょ、と呼ぶ)客席数は百数十席の小規模舞台だが、半屋外にあり独特な生々しい雰囲気がある。草木や夜空、天候の雨、風、など無数のコンテが描き込まれている。無味乾燥な能楽堂とは趣が違うのだ。
そこで上演される演目次第では、単に能を越えて現代劇的な接触感覚さえ体験出来る場でもある。
昨夜、能『砧』で用いられた能面『痩女』銕仙会所蔵本面の表情が凄まじかった。すでに見慣れたはずの面であったのに、あまりに生々しく魂に張り付いて、人の心を喰らいに来た生き霊…なのであった。
時に、場が作る能というものがある。役者や観客だけの力ではなく、別の作用が働いて仕上げてしまう能だ。もちろん、そこを呼び込む役者の存在、シャーマニズムな肉体も必要だが、その体験をすると能に対する視点が遥かに広がる。
しかし、だ。それが巧く写真になるのか。下流写真家である私には残念ながら及ばないのだ。
いずれ人生で懺悔する他はない。
