異文『浦島太郎』
妻の遺骨をスーパーのトイレに流したセコい男のプライド…しかし、ずっと脳裏の片隅で気になっている。
こういう話は週刊誌やネットで拡散した後では、何も面白くない。言い方は悪意に満ちるが、『今が旬』だ。
男と妻との出会いから今日まで、妻の死。遺骨をトイレに遺棄する過程。男は68歳と報道されている。叶うならば、漫画作家水木しげる氏に主人公を描いてもらい、一つの短編で読んでみたいものだ。
異文『浦島太郎』
…『ざっ、ざまあみやがれ!』男は妻の遺骨が入った壺をトイレの便器上に逆さまにかざすと、蓋を開け、わさわさと遺骨を便器に投げ入れた。石灰色の塊が細かく粉を漂わせながら、水の溜まった便器の底へ落ちてゆく。
狭い個室は蒸し暑く、男は全身から緊張の汗を光らせ、乾いた声で叫んだ。
『ざ、ざ、ざまあみやがれっ!』トイレの排水弁を大に回す。
じゃあ、じゃあ、じゃーーー。と便器の底に盛り上がった灰色の山が一気に押し流されてゆく。
男は生温い息を切らし、必死の思いで遺骨を流し空になった壺を抱えながらトイレの個室を出た。
指先に、まだ妻の遺骨が粉状になって残っている。手を洗おうと向かった手洗い場、壁にある鏡が視界に入った。そこには冴えない風貌の老人が自分を見ていた…『俺の顔だ。あの女のせいで、こんな爺さんになっちまった…ちくしょう、俺の人生は何なんだ!』慟哭する男の手から壺が床に滑り落ち、グワチャ~ンと大きな音を響かせ四方に割れた。四散した壺の欠片と残っていた妻の遺骨が白い煙となって男を包んだ…。
『えっへ、えへへ…』便所の中、呆けた男の笑い声がいつまでも響いていた。
