絶望からの脱出
以前に読んだ航空自衛隊の戦闘機パイロットが書いた随筆にある記述『ダメな操縦士はトラブルに際して、関係ない機器操作をして混乱に拍車をかける…』
旅僧が名乗り・道行きの途中だ。まだ間がある…冷静になろうとカメラのファンクションを再確認するが設定に異常はない。操作、設定、装着状態にミスはない。やはりカメラ本体の故障にあるのだろうか。
『絶望』という文字が脳内を狭差する。
舞台では旅僧の道行き謡が終わり、旅僧は脇座へ足を進め、ついに幕が上がる。
どうにも絶望の瞬間が近い。半ば諦めてファインダー内で露出設定を見た。
なぜか『f11・』インジケーターが点滅している…そうだ、前日、桜を撮影したままの設定であった。天にすがる気持ちで、絞りを開放、幕速を1/80に戻す。間一髪、前シテ一声に間に合った。再レリーズ…モニターには綺麗な画像が浮かび上がった。
『助かった…』
この僅か五分余りの
時間、全てが徒労に終わる絶望と隣り合わせにあった。
要は初歩的なミスなのだが…無事に撮影は終了。だが、ひとまず私はカメラを点検に出すことにした。カメラの点検時期を遅らせ酷使していた現状が不安を招き、私の操作ミスを発生させた伏線にあると思われた。
確かに、先の随筆には『航空史において重大な航空機事故の大半、十割近くは人為ミスであった』と書いてあるのだ。
