冬の宿…四
どうにも落ち込んだ感情、やるせなさのまま…私は、そこにいた。
娘みたいな若い女の店員がいた。いや、意外と人妻かも知れない。
私は、前に来たようにビールとベーコンを注文。店内は数人の客と静かな流れ…あと一時間程で閉店。
鞄に放り込んでいた文庫を読みながら、時間を過ごす。
あと、今日の目的を果たすだけだ。
人は二つの交流方法しかない。一つは『相手に対する』…それは時に感情や利益も含めて、対応する感情や行動が基礎となる。
もう一つが『相手からの』…人より学ぶ事、取捨選択をせず受け入れながら付き合う。経験による悟りを探すに近い。
そんな『別に、どうでもよかろうさ…』的なままビールのに本目も空になった。
閉店も近い。私は荷物をまとめレジに向かう。
さきほどの若い娘に『先日、この店で飲んだ時に私はビール三本飲んだのですが、レジは二本しかカウントしてなかったんで、ビール代支払いたいんですが…』
店員は店の奥に引っ込み、店主の女房が出てきた。
『いやー、わざわざありがとうございます。こちらのミスですから申し訳ないです、ですから、受け取れませんよ。こちらも覚えてもいないし…また良かったら、飲みにいらしてくださいね…』
静かな笑顔だった。
今は無理に支払う必要もない。
私は礼を言って店をあとにした。
次は、いつ来れるのだろう。近くて、遠い。
振り返った時、店の灯りは閉ざされて行く闇に沈み始めていた。

