初夏の川
一昨日、茅場町にある旧セーラー万年筆本社ビルに行った。
約八十年前に建てられたビルだという。
今はギャラリーに貸し出されていて、スタジオなどが入っている。
戦前のオフィスビルの薄暗い階段を登っていると、上から浅野忠信や松田優作が降りてきそうな雰囲気が漂う。
ギャラリーを拝見した後、運河めいた水路付近を散策した。
霊岸橋という橋から川面を眺めた。リョウガン、あるいはレイガン、どちらの読みなのだろう。
川は此岸と彼岸を分ける、ならばレイガンと読ませる方が意味的には叶う。霊の岸…それが良い。
実は、この場所には十年前くらいに一度来ている。しかし、今の私に見える風景は変わってしまった。何より、私自身が老いて変貌してしまったからだろう。
都会の時間は早く流れる。時間の中、私も流されているのか、ただ流れているのか。
霊岸橋の上、足元真下の川面に異質な何かが現れた。
烏の死骸のようだ。
死んだ烏の羽が、半透明な水面に浮かみつ沈みつ身を浸しながら流れて行く。
烏は羽を思いきり広げ、今にも羽ばたきそうな勢いの姿で溺死したようにも見えた。
烏は都会の空を飛び回る夢でも見ているのだろう。
カメラレンズを水面に向けた。烏の死骸が逆光に反射して綺麗に見えた。
生臭い死臭と初夏の太陽が川面に揺れていた。
