踏み切り
列車の車窓風景に、時おり沿線で写真機材を構える人を見かける。
いわゆる『鉄』である。この猛暑にも負けず、照りつける水田の畦道や河原に仁王立ちになって頑張っている。
私も『鉄』ヲタを楽しむ時代があった。
企業専用線や貨物列車、私鉄などが相手で、適当に寂れた具合が良い味わいだった。
そんな風景も、すでに鉄道から去ってしまい、私の気持ちが離れていた。
ところが、列車に揺られながら気がついた。
それは一瞬の邂逅。
僅か数メートル以内の視界に走り去る場所があった。
そうだ。踏み切りだ。
チンチンと鐘を鳴らしながら列車を知らせる。さらに、何もない『第四種踏み切り』…この、ただ柵があるだけの踏み切りが良い。
たぶん、旅先で出会う美少女とのドラマも『第四種踏み切り』にはいない。
ただ、列車が走りすぎる時のみに、その喧騒に文明の力が誇示され、そして静寂が戻る。
この静寂、あとは天然自然が支配する空気。
在宅で終始する『鉄』の妄想。
