追想の風景
東北の山々が車窓に見えてくる。
阿武隈山脈の中腹に、白抜きの大文字が新緑の中に映える。
『酒は大七』
福島県内地元の酒造看板なのだ。
これを見ると何となく関東から東北の地に踏み入れた気分になる。
四十年も前の沿線風景だ。
旅行に耐えない弱さで、体の幼かった私は両親達の実家に帰省するぐらいが限界だった。
半ば、疲れが身体を支配した辺りに、この『酒は大七』が目に入ってくる。
…はぁ、あと一時間くらいか…。
あるいは秋の夕暮れ。雨煙る山裾に刈穂が並ぶ農村。
ぽつん、ぽつん…と電柱の笠を付けた裸電球に灯りが点る。
そんな光景が、一瞬に入れ替わりしながら、幼い私の記憶が増えてゆく。
私も中年期の峠を、いずれ越えようとしている。なのに、車窓から眺める気分は変わらない。
多少変わったのは、酒を飲みながら風景を楽しんでいる事。
