廃墟の花
少しばかり、精神的に空白があった。
自分に関係する事柄に、多少の迷いが生じたからだ。
人の一生が、一人では完結しない以上、それは相互補完にある。生まれてから、死んで墓に入れてもらうまで、実は他人の世話になるのだ。
しかし、いつしか自分の力に溺れたり、慢心や無関心となり果て…忘れてしまう。
今日は休日。
一人、機材ケースを引いて出掛けている。
手首が重い。
まだ、先は遠いのにさ。
都内某所、ブロック塀だけが残る空地に赤い薔薇が咲いていた。以前、この場所に庭があって薔薇を育てていた住人の名残か。
少し香りを立てて、日だまりに咲いていた。
もう…誰が花を楽しむわけもないのに。
都会は庭が狭いから、花を惜しむ花盗人もいない。
