『シベリア』代々木能舞台…写真屋の独り言…弐
今回、主催者の好意により通し稽古と、仕上げのゲネを見せて頂いた。
私は芝居を見ながら楽しむ…というよりも、どうしても芝居側に入り込む癖がある。何やら感情移入が発生するのだ。
そのゲネを見ている最中、私の脳裏に突如として、『ぁあ、まさか…』と蘇った記憶があった。
それは、私が学生時代に出会った一組の老夫婦の面影であった。
もう二十年も昔になってしまうが、高田馬場駅前に一軒のバーがあり、その老夫婦の経営する店内は、訪れた客と会話しながら夜をひっそりと過ごす場であった。
店主である老人は長身であり、若い頃はダンディな青年であろうと想像された方。
昭和の始めに運転免許を取り、老人曰く…俺の番号は一桁だったよ…と。
元陸軍中尉で、戦後は苦労の連続だったらしい。
そして、その老人の奥様が…地方出の私に、都会の水を上手く飲む方法を教えてくれた一人でもあった。
『俺はね…○○さん。戦後は(奥様を見ながら…)、こいつの体一つに食わせてもらって、今まで生きてきたんだ…』…カウンター越しに、声を引き絞るように語る老人の声。簡単には切り離せない人の人生って、本当にあるんだ…。
私の閉じこめていた記憶が、芝居のゲネを見ていた最中に鮮明に思い出される。
もう少し、つづく。
