鮎釣り
朝方から涼しい風が吹いていた。
きっと川面はさらに涼しいだろう…と、私は川が見たくて、ボロチャリに乗って近所の河原へ行ってみた。
数人の人等が釣りをしている。この川は、魚権がないので一般人も釣れるのだと聞いた事がある。
ちょうど季節的にも鮎釣りのシーズン。一人の老人が竿を三度くらい引く割合で一匹ずつ見事に釣りあげてゆく。
『お見事ですね』
…いや、入れ喰いとはゆかなくてね…。
『鮎はどこから?』
…東京湾だね。天然物の江戸前だよ…
『食べられるのですか』
…いや、魚自体が油臭いし食べられないよ…。
帰り支度の親子連れが、それまで釣ってボックスに入れた鮎達を子供等が川に再放流していた。
…ほら、魚が川に還ってゆくよ…放しちゃうと、すぐに見えなくなっちゃうね…。
小鮎せばしる、せぜらぎに、かだみて魚は世もつきじ…。
謡曲『鵜飼』より。
能には鵜飼や国栖、放生川に鮎がでてくる。鮎は古来から神聖で大切な魚とされた。
初夏の川に普通に鮎が泳ぐ風景…そういう情感を貴重と思う心さえ、今は時代遅れで知恵の足りないノスタルジアだと勘違いする。
こうやって身近に自然の生物がいて、どうにか都会の生活も僅かながら保っているに過ぎないだろうに。
