虫干し
発熱と風邪のふらつきを押さえながら、何とか納品先へ搬入。
そこは都内の某能楽堂。ちょうど時期的に(虫干し)の最中。
舞台に吊り下げられた能衣装。一つ一つに創意があり、能専用の着物でありながら、一つの服飾デザインの思想を具現している点がおもしろいと感じる。
ひっそりと静まり返った舞台に一人。
能舞台を覆い尽くす衣装群の隙間から天井の灯りが舞台床を照らす。
舞台に立っていると、足の下から得体の知れない力に似たものが伝わってくる。
これはパワースポットか…いや、いや。
そんな神秘主義は、存在しない。
舞台特有の緊迫感が私を刺激するのだろう。目の前に観客が詰める見所があり、舞台と衣装が空間を埋め尽くしているのだ。
人がいようが、いまいが…舞台とは常に緊迫感を湛えているものだ。
この圧倒される空気に耐えられないと、本当の意味での舞台は勤まらない。
足の指先に軽く熱気が伝わってくる。
久しく味わっていなかった感触を、少し懐かしく思った。

