酒題
思えば、ずっと『孤独の憂』というものがあって、仕事帰りに居酒屋のカウンターで飲むような習慣が身についていた。そうして、帰宅した際の寂しさを適度に誤魔化してきた。
満たそうとして酒を注いだ杯の隣に、底の無い闇を潜ませた杯が見えた。闇は私の酒を瞬時に奪う。
『酒なんか飲んでも楽しくはならないや…。』
飲み屋のカウンターで展開するネタ話に飽いたのも一つだろう。もしかすると、私がまだ意識的に子供なのかも知れない。
例えば、私はアイドルはアイドルの展開と方向性を楽しむ話題が好きだし(みぃちゃんが心配だなぁ…とか)、映画女優ならば演技や作品論を聞きたいと思う。
人は誰でも憎悪の装置を心に持っている(装置がない人もまれにはいるだろう)…装置が発動、反応する話題は人によって違う。
ゆえに多様だから、何人もヘイトな言葉や質問、疑念、嫉妬は、酒の席では口にはしない方が互いに幸せなのだ。
いわゆる(心の壁)という奴だ。
しかし、酒はそうした壁を取り払う効果もある。あるからこそ、酒は必要な楽しみであり、また難しいのだ。
酒は酔うために飲むのではない。少しだけ壁を外してみたい時に酒は必要となる。
昨夜、韓国の友人に深夜酔った勢いで電話をしてみた。
偶然、向こうも飲んでいたようで、久しく二年ぶりの会話が弾んだ。
酒の楽しさとは好機、千載一遇なのだと思う。
