恋慕への追想
能には恋慕の回想をテーマとした曲がある。あるいは、報われぬ愛に苦しむ男女を描いた曲もある。前者の能では『井筒』や『野宮』が代表作であり、後者としては『定家』『通小町』があげられる。恋慕への追想や妄執とは、生前の主人公が経験した快楽の過程から生み出された感情の流れだ。
この主人公の魂が時間を遡り、それぞれの過去の恋慕を語るという主題は、600年前から文藝テーマとして東西に普遍的なのだといえる。
先日、映画『タイタニック』を初めて冒頭から最後まで全編を見た。
この作品が、老婆の語りによる若き日の恋愛物語であり、最後に死の淵にて若い恋人同士に還ってゆく展開が、前述の能テーマと重なり合うようにも思えたのだ。
ヒロインは老いても亡き恋人へ恋愛の炎を消さなかった人生であったわけで、その意味で凄いテロシズムでもある。
自分の輝いていた肉体への賛美が、青いサファイアに象徴されていたようにも見える。
私には映画『タイタニック』が名作かは判断しかねるが、能と構成や構造を比較検討してみると(安易な言い方ではあるが…)恋愛への追想というテーマで語るには面白いと思えた。
