アンダルシアの犬
人には苦手なものが一つくらいはある。
例えば、虫が嫌いとか…。
虫嫌いは、都会育ちの若い男女に限らず、最近は田舎でも多く見受けられる。
ある夜の事だ。都内にて仕事帰りの電車車内、突然に女性の叫び声が上がった。
『何事か…』と声の方を見れば、何やら一匹の黒い羽虫が我が者顔で、車内を飛び回り、その飛ぶ先々で絶叫に近い悲鳴があがる…。
若い女性は云うに及ばず、中年女性や男性まで『うわぁ~』と逃げすくむ。
女性たちの『嫌~ッ!』って金属的な声、そのウルサい事ったらない。
たかが虫一匹だ。
その虫が偶然、私の前に飛んできた。
私は虫の種類を確認すると、すばやく左手で掴みとり近くの窓を開け、虫を逃がした。
一瞬にして、先ほどの騒動も忘れて元の状態に戻る車内。
今となれば、人類さえ破滅しかねない自らが生み出した科学の過ちに、連日悩まされている我々である。
この一件は震災に遭う前の出来事だったが、今でも一匹の虫ぐらいで何事か、ずいぶんと人間は身勝手なものだ、と私は思っている。
だが、私にも苦手な虫がいる。一匹見るだけで寒気がするくらい…それが『蟻』で…幼い頃のトラウマにより、今でも絶えがたい程に苦手なのだ。
