空にて血の涙
ただ悲しくて言いたい事がある。
五月の連休。
幼い頃は、毎年両親の実家がある東北路へ行った。
すでに水田は田植えが終わって、清々とした苗が風に靡く。
新緑に輝く屋敷森に翻る鯉のぼりと旗指物。
陽光を煌めかせて回転する矢車。
ゆっくりと走る列車が汽笛を鳴らす。
歌うように山野に響き木霊する。
人は季節を待ち、楽しんでいたと思う。
この春、壊れてしまった沿線風景。人も怯えたようにいなくなった。
ひとえに悔しく、何より悲しい。
おい、もう帰るのか。
北へ戻るウミネコが海岸を北上していった。
その先にあるのだ。
おい、帰るのか。
空にて親は血の涙を流し、北を目指して飛び去ってゆく。
全ての生命を拒む空へ飛んで行く。
彼らの血の涙を誰が知る。
