柚子味噌
昨年の秋、とある同年代の写真家の方から、『母が作ったんだけど…』(自家製柚子味噌)を頂いた。
その方は親子二代の能楽写真家で、先年他界されたお父様は我々能楽写真家が目標とする作品を数多く残された方であった。
先日、所用で御自宅をお訪ねした際に、お母様が『実家から柚子を沢山送ってきたのだけど…どうしましょうか…』と思案なさっていたので、私は『あぁ、あの柚子だな』と、軽く彼に礼を言って自宅に持って帰った。
その日、夕食の肉野菜炒めに柚子味噌を使おうと思い、とりあえず柚子味噌を一口味見した。
私は料理には自信過剰なほど自負があるので、(全く傲慢だが)他人の料理に驚く事は滅多にない。
だが…『う、…美味い』
じわりと柚子の香りと甘さが口に広がる。透き通った味わい…柚子の持ち味が『主題』として、しっかり伝わってくる。
私は思わず、二口、三口と舌に運んだ。
そして心奥深く味わった。
優れた芸術作品を残した写真家を支えた妻が作る家庭の味も、また見事な作品なのだった。
人が優れた成果をあげる裏側には、支える存在が必ずある。
芸術家としての気難しさや気位の高さもあったはずだ。
その夫を支えた味は、食した人に伝わる丁寧な仕事を施したものだった。
そういう質の高さが、『家庭から学ぶ知性』なのだなと思う。
そして、私は彼のお父様が少しだけ羨ましくなった。
