逃げた家臣…籠太鼓
拙い事になった…。
子飼いの家臣関清次の引き起こした一件は、さらに波紋を広げてしまったようだ。
もうすぐ初夏からと盛夏に入る。
日差しはすでに、かなり高い。
額に汗を浮かべながら報告する配下の報告を聞きながら、主である松浦太郎は、…今後の処理は細心を以て当たらねばならぬ…と、でなければ我が松浦党が崩壊するやも知れぬ。
事の起こりは、我が家臣関清次が同僚である何某と口論になったゆえに、相手を斬り棄てた事から始まった。
関清次は、松浦にとっては大切な子飼いの家臣であり、合戦の際には最も信頼する一人であった。
勇にして冷静、小姓足軽など下人の信頼も高い。
その関が、である。
上役に当たる同僚を斬った。
斬った関は、逐電もせず周囲を促すように自ら牢に入ったが、取り調べに際しては一切の理由を話さぬ。
水しか取らず、差し入れも口にしない。
その関が、昨夜牢を破って逐電し行方を消した。
当然、何某の一族は関の処罰を求めて訴えを出してきている。
このままには放置できない…が、問題は関が身を置いている相手である。
もし、対立する領主の家臣として取り立てられたら…そう思うと、松浦は『ぞっ…』するのだ。
あの男と戦場で合戦するには、とうてい算があわぬ。
しかし、裁かねばならない。
配下の者が口を開いた。
『清次には妻がおります…』
『鄙にはまれに賢く見目も美しいとか…清次が妻を置いて逐電するとは思われませ…』
配下の言葉を遮り、逡巡もなく松浦が立ち上がった。
『その妻、即刻牢に入れ、口堅く謹厳な者にて厳しく監視を付けよ、儂が調べるまで何人も通してはならんぞ。』
さて、噂に聞く関の妻女…賢婦であるらしいが、松浦は一縷望みを妻に託す事に決めた。
