「阿波発心編⑥」
じぶんでゲームのストーリーを創るなら
絶対倒すことのできないボスなんて登場させますか。
必ずどうにかして最後まで乗り越えてゆけるストーリーを書くでせう。
かならずどこかに強敵のボスを倒すことができる
伝説の聖剣を隠して用意していると思います。
かならず最後まで乗り越えられる。何とかなる。
自分で自分の人生のストーリーを書いたのならば猶更でせう。
風通しが悪く寝苦しかったもので
着物もはだけてみっともない姿をして寝ておりました。
昨晩はお寺の前にある東屋に案内されたのでそこで眠ったのです。
すでに七月の末、なおさらむんむんしております。
ふと目が覚めると薄明るくなってまして
人影がぼやけた視界のなかに、あの住職さんでした。
ハっと飛び起きて急いではだけていた着物で身を隠しました。
住職さんが何かを携えておるのが見えます。
それは遍路装束である白衣(びゃくえ)と頭陀袋と金剛杖でした。
住職さんは白装束を着けたのと着けないとでは
人々からの待遇が違うので着て行きなさい、と言います。
もちろん通常これらの装備はお寺の売店などで購入しないといけません。
この三点だけでもそれなりの価格はします。
どれも新品であったので住職さんが代金を出したのでせう。
本当に自分に必要なものは自ずと向こうからやってくる。
ただ流れにゆたゆた身を委ねてれいればいい。
身の上一張羅の志、はじめは遍路装束はまとわず巡礼するつもりでして
正直余計な荷物をもらったなあとは思ってしまいましたけど
折角の情けをむげに断るわけにもいきません。
それに何より見返りを求めないその「仁慈」こそが最も嬉しいのです。
はからずも基本装備は一番最初の寺で揃いました。
まるでRPGゲームの主人公の旅立ちの場面みたく
予めこういうシナリオができていたみたいに思えます。
ぷんっと立ち上がって何度もぺこぺこ頭を下げて
かたじけない、かたじけない、と住職さんにお礼しました。
天道さまもすっかり昇りきって係りの人もやって来たので
案内所に行き参拝手順を一通りならい最初の参拝に向かいます。
お寺の本堂に行くとあの住職さんが集まっている人たちに説話をしていました。
少し遠かったのでわたしのことが見えたのかどうかわかりませんが
ぴんと背筋を張って会釈をしてから寺を出ました。
平成二十四年七月二十六日快晴。
いよいよ四国八十八カ所巡拝の旅の幕開けです。
ここで一首。
*
澄み渡る
空と海とを
眺めむと
流れてゆかむ
知れぬ行くへに
*
徒まくら処-洞蘭ー[pc/mobile]