誰もが『普通ではない』~普通とは何か~

 

普通とは、大体が「ありきたり、あたりまえの、多くの場合に同じ」という意味で受け取られ、人間の多くは普通の人であると考えられています。しかし、普通の人と言いながらも「喋り方が上手い」「考えが深い」「親切である」など、普通より程度が高い部分を取り出すと、どんな人でも「普通以上の何か」という長所を持っています。そして、誰しもが「普通以下の何か」、つまり欠点も持っています。それらの長所と欠点を合わせると、それぞれ誰とも同じでない個性を備えることになります。

 

では、それぞれ違う個性の人達をひとくくりにする「普通」とはなんでしょうか。結論を先に述べると、「時代と場所」によって何が普通かが決まると言えます。人類は常に、今生きている時代の問題を解決する方法を考え、次の世代にその方法を託していきます。託された世代にとっては生まれた時からあって当然のもので、それを普通の物として使いながら自分たちの時代の問題に直面して解決し、前の世代と同じように次の世代に託すという、文明が発展する基本的なメカニズムを担い連綿と受け継いできました。

 

文明という大きなレベルで考える「普通」は、確実に変遷します。例えば昭和に当たり前だった「終身雇用」は、ほぼ崩壊しつつあると言われています。リストラで正社員を減らして非正規雇用で人材を確保する経営が一般的になり、またフリーランスやパラレルワーク(職業を二つ以上持つこと)など、働き方の多様化が進んでいます。ICT技術や規制緩和などで世の中が毎日変わっていく中、普通の働き方という観念は維持するのが難しくなっていくでしょう。

 

一方で、昭和の時代には打ち捨てられていた「普通でない人たち」という存在が、現在進行する「働き方改革」や「生涯教育の普及」などの波によって社会参加の可能性を持ち始めています。例えば、障がい者・ニート・引きこもり・氷河期世代など、社会が今まで受け入れるのが難しかった人々が、新しい労働力として注目されつつあります。「農福連携」という領域では、働きづらい人やブランクが長い人を受け入れる職域を作り、収入を得たりキャリアステップとして就職を目指したり、そのまま農業を仕事にするなど、目覚ましい成果を上げています。今後の新しい働き方に繋がるモデルケースとして官民学の注目を集めています。

 

いつの時代でも、その時通用していた常識が打ち破られて、新しい常識を生み出していきます。常識は人間が作るものであって、常識に依存するだけでは、時代の変化に裏をかかれるでしょう。「普通の人」とは「考えない人」ではないということが、常識になれば世の中はもっと素晴らしくなると思います。

                                                    事務局長 山田 完