日本海軍はその総力、ではないかもしれないが、予算の大部分を米海軍との艦隊決戦の準備に投入していた。開戦と同時に日本が米国が領有していたフィリピンを含む東南アジアを占領すると米国はフィリピン救援のために艦隊を派遣して進攻して来るのでこれを西太平洋に迎え撃って撃滅するのが日本海軍の対米基本戦略だった。その基本戦略に従って戦ったらどうなっただろう。日本がフィリピンを占領したら米軍はこれを奪還するために進攻して来るだろうか。米軍もすでに占領されてしまったフィリピンをいきなり奪還しようとするのはちょっと乱暴かもしれない。西太平洋にはマリアナ、マーシャル、パラオ、ミクロネシアなど日本の信託統治領が点在しているし、日本を素通りするわけにもいかない。日本の西側には日本領の台湾もある。いつどこから突かれるか分からない。日本海軍が待ち構えているところに飛び込んで来るのはちょっとあり得ない。日本は南洋諸島にはバカ正直に条約を守って島の要塞化もせず治安警備部隊程度の兵力しか置いていなかった。日本も開戦後はこれらの諸島の防備を固めるだろうが、米軍は現実と同様にオーストラリアからこれら諸島を占領しながら北上するだろう。これに対して日本は米豪を分断するために南進するだろうからやはりソロモン諸島辺りで1回目の決戦を挑むことになるだろう。時期は開戦後半年を過ぎた頃だろう。戦闘の様相は当然空母機動部隊による航空撃滅戦で戦艦同士の砲撃戦にはならないだろう。仮にここで日本が米軍の進攻を撃退して南進しても日本には兵站補給能力がないのでニューブリテン島のラバウル辺りが攻勢終末点になる。それ以上先に進めば補給が続かず米軍に消耗戦に引き込まれて結局は敗退しただろう。仮に大規模な海戦が生起して日本が大勝したとしても米海軍の全兵力を撃滅することはできないだろうし、日本に米国やオーストラリアを占領する能力はないので米軍は陸上航空戦力などで凌ぎながら時間を稼いで1943年以降にその工業生産力にものを言わせて大量の兵器を戦線に投入して日本を圧倒するだろう。資源がなく工業生産力が米国の1/10では手元にあるものを使いきったらそれでおしまいであとは差が開く一方である。ロシアがウクライナ侵攻で陸軍が壊滅するほどの損害を受けてさらに西側の経済制裁にも耐えているのは穀物や石油、天然ガスと言った金になる資源を持っているからだろう。日本がハワイを奇襲せずに米海軍の主力艦隊が進攻して来るのを待って艦隊決戦を挑んだら、・・・なんて話もあるが、話題としては面白いかもしれないが、ハワイを奇襲しようと米国に艦隊決戦を挑もうと国力の差はいかんともし難く日本の陸海軍のせん滅も可能、日本全土の占領も可能な米国に比べて米国の陸海軍を殲滅して米国の全領土を占領する能力がない日本に勝ち目はなかったのは明らかである。日本海軍の図上演習でも2年を過ぎるとどこに艦隊を集合させても米軍に発見されて攻撃を受けるような状況で「天の下隠れる場所もなし」と言った状況になったと言う。最後は連合艦隊は全滅、日本は米国に降伏とは言えないので「状況止め」で演習を終了したと言う。日本海軍は営々と築き上げてきた主力艦による艦隊決戦をしても米国には勝てないことを良く分かっていた。昭和天皇も「図上演習では何時も米国に負けると言うが大丈夫か」と海軍の状況を心配していたと言う。国家総力戦とは数字がすべてを決めてしまう冷徹なものだった。
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