翌日、午前中はいつもと変わらない平穏な勤務だったが、午後一で社長から電話が入った。「ちょっと来てくれ」
社長がそう言うので女土方に一言断ってから社長室に行った。ドアをノックして「佐山です」と言うと「ああ、どうぞ」と言う社長の声がしたので中に入った。

 

「佐山さん、大変だったらしいな。預かっている猫に襲われたんだって。」
 

いきなり社長にそんなことを言われて僕はその場に固まってしまった。どうして社長がそんなことを知っているんだろう。
 

「いや、例の面倒見てもらっている彼女と昼に会ったんだけどある人から預かったデカい猫が昨夜佐山さんに襲いかかったとか。そのことでずいぶんショックを受けているとかなのでちょっと来てもらった。その猫の飼い主を良く知っているんでこれから電話して慰謝料を取ってやろう」
 

社長は僕が固まっている間にさっさと電話を始めた。
 

「ああ、私ですが今ちょっといいですか。実はそちらで預けた猫がうちの社員に悪さをしてうちの社員がずいぶんショックを受けているんですが、困るんですよね。うちの主力社員なのに、・・え、何をしたかって、・・盛りがついて寝ていた彼女に覆い被さったとか。何と言っても女性ですからショックを受けるでしょう。ええ、・・そうです。まあ、・・アハハ、・・そんなことをお聞きでしたか。確かにちょっとやそっとでへこたれるような人ではありませんが、・・ええ、・・ライオン、・・トラ、・・アハハ、・・じゃあ振込先は連絡しますのでよろしく、・・どうもお手数を駆けました。」
 

電話を切ると社長は僕を見た。
 

「猫の飼い主、ずいぶん申し訳ないと言っていたよ。佐山さんの口座に謝礼と経費を振り込むそうだからこっちから連絡しておくよ、たんまり弾んでくれるといいね、ねえ、佐山さん、・・。」
 

社長はそう言うといたずらっぽい笑顔で片目を瞑って見せた。この人のこういう顔が僕は大好きだった。それから部屋に戻って仕事を始めたが、部屋の前を通る社員が中をのぞいていく。そのうちに「え、猫と、・・」なんて声が聞こえてきた。どうも知的美人がくだらないことを吹き込んだらしい。あの女、くだらないことばかり言いやがって帰ったら気合を入れてやろう。当の本人は全く知らん顔をして資料を見ているふりをしていた。その日は退社時間までのぞき客が絶えなかった。まあけっこう有名人の僕が猫と交わっていたなんて話が出回れば好奇心も尽きないだろう。これまでもこんなことはあったのであまり気にはしないことにいているが、・・。

 

家に帰ってから知的美人をちょっととっちめてやった。それでもしらばくれていたが、その晩、ベッドで徹底的に締め上げてやった。男は出したらそれで終わりだけど女の場合はそういうことはない。まあ疲れて飽きるということはあるけど目的はそっちじゃない。腰が抜けるほどやってやろうとあらん限りの手練手管を尽くして時間をかけてやって知的美人が涙を流してよだれを垂らして「ごめんなさい。もう許して」と言うまでやってやった。クレヨンが部屋に入ってきて裸で大の字になってベッドにひっくり返っている知的美人を見てびっくりしたような顔でのぞき込んでいた。
 

「職場でバカなことを言いふらすからお仕置きしてやったのよ」
 

クレヨンは知的美人をゆすって起こそうとしたが、知的美人はぐったりして反応しないのでさすがに無残と思ったのかシーツをかけてやっていた。
 

「あなたってやるときは本当に徹底的にやるのね。恐ろしい人ね」
 

「恐ろしいのは職場で私が猫とやったなんて言いふらす方でしょう。しかも社長にまで。私の名誉はどうなるのよ。それに変なことを言うと社長にも迷惑がかかるでしょう。私はどうせ男だか女だか分からない変な女だから別に猫に抱かれたと言われても何を言われても気にしないけど私のことで社長に迷惑がかかるのは困るしそんなことをするのは許せないのよ。分かったわね、そこにひっくり返っているお嬢様、今度やったら本当に放り出すからね。」
 

僕がそう言うと知的美人は大ドラ猫のように「グエ」とか呻いた。そこに落ち着いたと思ったのか大ドラ猫がやってきて僕の膝の上に乗った。しばらくして知的美人が起き上がってきて「あんたって本当に恐ろしい人ね。腰が抜けたわ。でもその分心底すっきりしたけど、・・」とか言ってバスルームに入っていった。恐ろしいのは変な噂を流して肉欲に浸っているお前の方だろう。僕はドラ猫をなでながら知的美人の後姿を見送っていた。
 

僕が猫とやったの云々と言う噂も数日で終息してまた普通の日常が戻ってきた。会社に出勤して仕事をして帰宅して、シフトで在宅ワークして、そんなこの時期ありふれた日常が過ぎて行った。大ドラ公は相変わらず僕の周りにまとわりついて時々知的美人とせめぎ合っては知的美人に猫パンチを食らわせていた。大ドラ公、毛が生えたオオサンショウウオの割には自分の敵が誰だか分かっているようだ。そんなある日、お手伝いさんがやってきて「町内で清掃活動があるのだけれど、・・」と言ってちょっと困ったような様子だった。どうしたのか尋ねるとこの家はでかいので清掃の範囲が広くて一人では手が回らないのだそうだ。これまではバイトを雇っていたが、今回はバイトがうまく見つからず困っているんだそうだ。
 

「だったら私たちが出ればいいんでしょう。何も困ることないわ。任せておいて」
 

僕はそう言ってクレヨンや知的美人を振り返った。
 

「いいわね。分かった。今度の日曜の午前中は空けておくのよ。」
 

「え、私たちがやるの」
 

クレヨンは不満そうな顔をした。お手伝いは下を向いてちょっと困ったような様子だった。
 

「ここはあんたのうちでしょう。私たちはともかくあんただけは絶対に参加よ。あとはこっちでやるからもういいわよ。当日の時間だけ教えてね」
 

僕がそう言うとお手伝いさんはほっとした様子で戻って行った。

 

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