「何するのよ。おとなしくネットしてなさいよ」
 

ちょっと邪険にしてやるとそれでも知的美人は背中から抱きついてきた。『しょうがねえやつだな』と思いながら向きなおろうとするとそこに灰色の塊がぶっ飛んできた。何が飛んできたんだと思ってみると大ドラだった。大ドラの野郎、僕と知的美人の間に入って知的美人に向かって「シャア」とか威嚇している。
 

「なに、こいつ」
 

知的美人が大ドラをどけようと手を出すと「シャア」とか言って猫パンチを繰り出した。
 

「何、このバカ猫、私が佐山に手を出しちゃいけないっていうの。憎たらしいドラ猫ねえ。」
 

知的美人と大ドラはそうしてしばらくにらみ合いをしていたが、そのうちに知的美人が「バカ猫と張り合っても仕方ないわね。せいぜいお二人で仲良くしてね」と言って引いてしまった。知的美人が引くと大ドラは満足げに僕の脇に丸まった。
 

「美人のお姉さま、素敵な彼ができてよかったわね」
 

知的美人がそう嫌味を言った。僕がやったわけじゃないのに文句を言うならこの大ドラ毛生えサンショウウオに言うといい。
 

「あんたもいい気になっていないで自分の寝床に戻りなさい」
 

僕は大ドラを抱えて放り出した。大ドラは「グエ」とか鳴いて恨めしそうにこっちを振り返りながら自分の箱に戻った。
 

「さあ、空いたわよ。こっちに来れば」
 

僕は知的美人を呼んでやった。
 

「なんだかシラケちゃったわ。そのバカ猫と盛り上がれば」
 

知的美人は大ドラに猫パンチを食らったのがよほどショックだったんだろう。
 

「ほらほら、おへそ曲げていないでなおしてあげるから」
 

そう言ってベッドまで引っ張ってくるとやっとその気になったようだった。昔犬を飼っていたことがある。毛がもくもくした洋犬で結構わがままな奴だったが、犬と言う動物は群れで生活するので自分より上位者はもとより下位者にも何だかんだと結構周りに気を使っている。そうして群れの序列を維持していかないと生きていけないからだろう。そうした心配のない安定した生活に入っても本能的にそうしているんだろう。猫を飼ったことはないが、猫は単独生活なのであまり周りに気を遣わず『天上天下唯我独尊』的な生き方をしているんだろう。それにしても毛が生えたオオサンショウウオの分際で僕を自分のものにしようなんてとんでもない奴だ。
 

「あんたってオス猫にも持てるのね。ちょっと絡んで見せてよ。興味があるわ」
 

知的美人が変なっことを言うので頭を一発叩いてやった。
 

「痛い、何すんのよ。」
 

知的美人が文句を言った。
 

「あんたがそこの大ドラと猫パンチ合戦でもやっていればいいのよ。敵同士なんだから」
 

敵同士と言えば敵になった原因は僕か。そうしたら大ドラの野郎、またのそのそと歩いてきてベッドに飛び乗ると僕の横に丸くなった。仕方がないので喉や腹をなでてやると「グエグエ」と気味の悪い声を出した。そのままうつぶせになって本を読んでいるとドラ公が僕の背中に乗ってきた。何だと思っていると何かがパコパコ尻に当たる。『あ、このバカ猫、‥』と思うと同時に知的美人が「アッ」と声を上げて部屋を飛び出して行った。ずいぶん前に犬を飼っていたことがあるので犬は盛りがつくと足にしがみついて疑似性交をすることはよくあるし、実際に犬同士の性交も目にしたことがある。でも猫のは見たことがない。盛りがつくと猫が「ギャオギャオ」と喚いているのはよく聞くが、実際に猫同士の性交と言うのは目にしたことがない。猫を飼っていればそういう機会もあるのかもしれないが、猫を飼ったことがないので分からないが、今、僕の背中でそれをやっている奴がいる、まあ実害はないので放っておいたらそこに知的美人が呼び込んだ女土方とクレヨンが入って来た。
 

「あんたたち、何やってるのよ」
 

クレヨンが叫んだ。その声でドラ公は動きを止めた。僕もドラ公を背中から除けた。ドラ公は中途半端で終わってしまったのを恨めしそうな様子で自分の箱ベッドに戻って行った。
 

「社長も食い飽きてとうとうドラ猫相手にするようになったのね」
 

知的美人があきれたという風情でそんなことを言った。
 

「誰が社長を食い飽きたのよ。人聞きの悪いこと言わないでよね。第一あいつが勝手にやったことでしょう。私は被害者よ」
 

僕がそう言うと今度はクレヨンが声を上げた。
 

「この女とあのドラ猫の子ができたらどんなのが生まれるんだろう。ライオンかなあ。あ、違う。虎だな。あ、龍かも。」
 

黙って聞いていれば勝手なことを言う。人間と猫の交配なんてあるわけないだろう。第一実際にやったわけじゃないだろう。でもトラだかライオンだか龍だかを生むのは誰なんだ。僕なのか。
 

「あんた、谷底に落としてやろうか」
 

僕がベッドから起き上がるとクレヨンはさっと女土方の後ろに隠れたが、「自分が言ったことはきちんと自分で責任取りなさい」と女土方に僕の方に押し出されてしまった。ざまあ見ろ。僕はクレヨンの襟首をつかむと引き寄せてから股に手をまわして担ぎ上げてベッドに投げ飛ばしてやった。そして押さえつけてパンツに手をかけて「さあドラ公、この女を食っちまいな」と言うと「やめてえ。そんなことしたら訴えてやるからあ」とクレヨンが悲鳴を上げた。でもドラ公は全く我関せずでそっぽを向いていた。僕はクレヨンを離してやると知的美人に「変なことを広めたらここからたたき出すからね。大体社長とはやましいことは何もないんだからね。変なことを言ったら社長に迷惑がかかるでしょう。」と釘を刺しておいた。もっとも社長とは何もなかったのかどうか自分でも疑問符が付くところではあるけど。
 

「でもあのドラ猫、あんたのことよっぽど気に入っているのね。あんなことする猫なんか初めて見たわ。びっくりしちゃったわ。」
 

「あんたみたいに男経験豊富であしらい方のうまいのを選べばいいのにね、このバカ猫が、・・」
 

ちょっと厭味ったらしくそう言うと知的美人は「ふふん」とせせら笑った。
 

「そうおっしゃるそちらこそ百戦錬磨じゃないの、殿方のお相手は、・・」
 

僕は知的美人の言うことにムカついたのでクレヨンと同じように襟首をつかんで引き寄せて股座に手をまわして持ち上げてベッドの上に落としてやった。
 

「本当に野蛮人ね。澤田が嘆くのも分かるわ。」
 

知的美人がそう言うとクレヨンが「そうだ、そうだ」と相槌を打った。
 

「あんたが私を食おうとしてドラ公に猫パンチを食らったんでしょう。その点はドラ公が正しいわね」
 

僕がそう言い返すと知的美人は「ふん」と言う素振りで横を向いた。あのドラ公の猫パンチに結構傷ついているのかもしれない。
 

「さあ、もうおバカなことをしていないで休むわよ。」
 

女土方はそう言うとさっさと部屋から出て行った。クレヨンが慌てて後を追って行った。クレヨンは女土方には全く頭が上がらない。そして部屋にはまた僕と知的美人とドラ公が残された。
 

「ねえ、ちょっと遊んで」
 

知的美人が上目遣いに僕を見た。こいつ結局ベタベタしたいんだろう。
 

「またドラ公の猫パンチを食らうわよ」
 

僕はそう言ったがドラ公は自分の箱ベッドで丸まっていた。
 

「猫パンチなんかしたらベランダにつるしてやるわ」
 

知的美人はそう言うと僕に絡みついてきた。オスのドラ公にのしかかられたり人間の女に絡まれたり僕も結構忙しいものだ。
 

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