それにその対象の女と言うが、年はもう30ほどなんで十分大人なんだろうけどどうせサルの仲間と言うのだから能天気な極楽とんぼでハイビスカスの花の間を飛び回っているような手合いなんだろう。様々考えただけで気が重くなるが話はもう始まってしまっているので今更引くこともできない。女土方は傍観者を決め込んでいるようだし、知的美人は「一緒に行ってやるんだからいい宿取りなさいよ」などと半分以上旅行気分ではある。どうでもいいけど結局はみんな僕に丸投げしようという魂胆のようではある。男に金を貸そうが体を与えようがそんなことは自己責任でやってもらいたい。

そんなこんなで週末がやって来た。4人なので電車で行こうかと言う話もあったが、そう言えばこのうちは最近お買い物車を買い替えた。まあトップなどでいろいろ付き合いがあるんだろうし、業務用の車両も大量に購入しているのでそんな付き合いがあるのかもしれないが、お買い物車にレクサスの最上級セダンを入れた。そんなわけなんでせっかくの高級車だからそれで行こうという話になった。

でもじゃあ誰が運転をと言うと全員が僕の方を見たのでここでもまた僕が貧乏くじを引くことになった。でもまあ車の運転は好きなので東京から箱根くらいならどうと言いうこともないが、・・。晩飯を一緒に食いましょうということのようなのであまり早く行っても仕方がないので自宅を昼頃に出発した。

しかし、高級車と言うのは僕の車に対する常識が全く通用しない。シート一つにしてもすべて電動でタッチパネルか何かで操作するんだろうけど何をどうすればいいのかもよく分からない。シートなんか手で動かせばいいだろうに面倒くさい。一度セットするとボタン一つでその人に合ったポジションに変化するらしいが、セットするのが面倒くさい。レカロのバケットでもつけておけばいいのに付け替えたら怒られるだろうか。

まあそんなこんなで走り出して首都高から東名、でも箱根表は込み合っているだろうから御殿場側から入って2時間ほどで到着した。到着してびっくりしたのはその旅館の構えだった。どう見ても一泊二食付き1万5千円とか言う普通の旅館ではない。お出迎えを受けて車を預けるとロビーに入ったが、ここって一人一泊で6桁の世界だろう。チェックインを済ませると部屋まで案内してくれたが、ずい分ていねいで恐縮して肩が凝ってしまうような応対だった。

「あんた、こんなところ誰が取ったのよ。一体いくらするの、一泊で、・・。」

僕がそう聞くと「いいところを取っておいてと会社に頼んだの。支払いは父の口座から落ちるから大丈夫よ。」と澄ましていた。会社とはうちの方じゃなくて銀行の方だろう。それからしばらく自分の懐で泊まることはないだろう超高級旅館を見学したり風呂に入ったりして時間を潰して向こう様が来るのを待った。

夕方、そろそろ飯の時間かなと言う頃になって向こう様から「もう少しで到着する」と連絡が入ったとクレヨンが伝えた。この部屋は入り口を入ると控えの間があってその奥に二十畳ほどの宴会でもできそうな居間そして寝室が二つ、浴室に大きなベランダには露天風呂と僕らの旅館の常識を超越したような間取りだった。そのほかに向こう様用に二人部屋を取ったというから剛毅なものではある。クレヨンの携帯が鳴ってメールを確認すると「ちょっとこっちに連れて来るね」と言い残して部屋を出て行った。

 

 

「しかし、豪勢なものねえ。こんなところに六人も招くんだから」


知的美人が部屋を見まわして感極まるような調子でそう言った。

「あんたのところだってそうでしょう。お父さんは大物政治家なんだから金なんかいくらでも入って来るでしょう」

僕がそう言うと知的美人はあきれたような顔をした。

「あのね、政治家なんて金なんか右から左へ通過するだけ。自転車操業、火の車なの。特に子分を抱えているとその面倒も見ないといけないし、そうかと言ってこのご時世金なんかそうそう入って来るものじゃないのよ。下手すれば手が後ろに回るでしょう。」

まあいわれてみればその通りで政治家なんかその辺の勤め人よりは金があるかもしれないが、先祖代々の資産でもない限り確かに自転車操業、火の車だろう。そんなことを言っているうちに「さあ、ここよ。入って」と言うクレヨンの声が聞こえて向こう様が入って来た。クレヨンに案内されて入って来た二人を見てまず驚いたのは男の方の軽薄さだった。パッと見はまあ今どきのイケメンとでもいうのかもしれないが、何だか全身から軽薄さが噴出しているようなおバカ小僧だった。こいつにできる事業と言ったら一体何があるのか全く思いつかなかった。僕なら天地がひっくり返ろうと太陽が墜落しようとこんなのには絶対に投資したりしない。まあこの世の中には物好きもいたものだ。

 

 

で、その物好きなんだけどそれがおバカ小僧とは比較にならないほどの驚愕の原因だった。どうしてってとんでもない美人だったから。世の中できれいだの美人だのと言うけど実際には真ん中で線を引いたらかわいい方とか、まあきれいな方とか言うその程度の女はごまんといる。それよりも高尚な美人もまあ少しはいる。女土方もそうだし、知的美人もそうだろう。クレヨンも頭は致命的だが、「どうか」と聞けば10人のうち6,7人は「まあまあいいんじゃないの」と言うだろう。でも今入って来た女はそれよりも一段上、10人のうち8,9人は「おお、きれい」と言うレベルだろう。品もよさそうだし、クレヨンとは違って頭も悪そうには見えないいい女だった。

 

 

 
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