向こうの社長はうちの社長よりも少し若くてやる気十分といった風情でなかなか溌溂としていた。おっとうちの社長がじじむさくてパッとしないということではないので誤解のないよう念のため、一言申し添えておく。車で札幌市内のホテルに送ってもらい、部屋に入って一旦身支度を整えるとロビーで社長と合流してあちら様のお出迎えを待った。

 

 

今回、服装はこういう機会なのでパンツスーツにした。最近年を取るほどにスーツが鬱陶しくなってきたがまあやむを得ない。ああ、面倒くさい。ホテルからほど近いちょっと小洒落たレストランで昼をごちそうになり、それから会社に向かった。

 

 

ビルのワンフロアを借りているが、うちよりはかなり小さい。社長室というかパーテーションとカーテンで仕切ったスペースで一服してから向こうの担当者との打ち合わせとなった。担当者から一通り商品の説明があったが、やはり小分けしたケースバイケースのパッケージ化によるお手軽さと金も時間もかからないネット留学が売りのようでまあ語学も考えることはどこも一緒ではある。

 

 

「何かご意見は」と振られると社長が「ではうちのエースプランナーから、・・うちのエースで戦闘系女子としても有名な佐山が一言、・・」などと余計なことを言った。

 

 

僕は社長を一睨みしてから飛行機の中で社長に言ったのと同様なことを当たり障りなく申し上げてその場をしのいだ。向こうの社長が、「うちの企画で何かお気づきになった問題点などはありますか」と聞いてきた。

 

 

社長が僕に「答えてあげなさい」と目くばせするので似たような企画はたくさんあるので何をもってアピールするかという点と将来の課題として今後のAIなどの進化による語学学習環境の変化にどう対応するかなどということを挙げておいた。

 

 

後者については単に語学だけの問題ではなく社会全体が大きく変わるほどの問題なんだろう。会社としては顧客のニーズに応じた多様なパッケージを用意することで他との差別化を図り、またネット留学を拡充していくなどの点を強調していた。まあ語学に限らず勉強などというのは本人のやる気なんでどんなに優れたプランを提供してもやる気がなければどうにもならない。一番の問題はやる側のやる気をどう引き出すかだが、ファッションだからそこまで考える必要もないだろう。

 

 

そんなこんなで打ち合わせが終わり、社内の見学とかで広くもない社内を見せてもらい、コーヒーをごちそうになっていると5時になった。5時になると自動的に「それでは一献差し上げたい」ということでどっと繰り出した。どっととは言ってもこっちは2名、向こうは社長と専務に担当者が2名の4名、合計6名の小規模なものではあるが、・・。

 

 

その席でもAIの発達と翻訳通訳の話が出たが、一昔前までは機械が言葉の翻訳や通訳をするのは不可能と言っていたが、最近では結構使えるようになってきているそうだ。あまり感情を交えない客観的な言葉の通訳ではそれなりに使えるようになっているらしい。

 

 

ただ人間の感情などが絡んだ話になると細かいニュアンスを表現するのは難しいのかもしれない。でもそれも技術の発達でそうした感情を交えた話もそれなり正確に翻訳、通訳ができるようになるのかもしれない。

 

 

データベースとリンクして会話の背景にあるデータを引っ張り出してそうしたものを翻訳、通訳に生かすとか、そうなるとデータの処理能力は人間など足元にも及ばないので語学にかかわる人間や会社は失業、廃業の憂き目に遭うかもしれない。でも人間の潜在能力というのはまだまだ未知の分野が多いのでAIとの戦いの帰趨はまだ不明なのかもしれない。

 

 

そんなこんなで話が弾んで「今後もできることを確実に実行してしっかり頑張りましょう」ということで宴会は終了した。そしてそのまま車でホテルに送ってもらって「また明日」ということになった。社長とは隣同士の部屋だったが、部屋の前で「じゃあ、明日」と別れた。

 

 

翌日は会場まで車で送迎してもらって一夜漬けで勉強した会話プログラムの説明と売り込みに従事した。シチュエーションによって小分けされたプログラムはDVDディスクで購入できるほか、ネットでもダウンロードできるなどさすがに時代を感じさせる。商品は概ね好評で引き合いも多かったようだ。

 

 

また個人で見学に来たお客も興味を示してあれこれ確認していたようだった。僕自身も何件か扱ったが、やはり内容と価格が手ごろで手を出しやすいという意見が多かった。そんなわけでおおむね好評に推移したが、よろしくないことが一つだけあった。

 

 

それは天候だった。どうも大雪になりそうだというのだ。天気予報でも大雪警報が出ていて午後には黒い雲が次から次と寄せてきて夕方には雪が降り出した。元祖佐山芳恵は北海道出身者だが、今の僕自身は東京近郊育ちなので大雪とか言われても大したことはないだろうと高をくくっていた。東京ならちょっと雪が降ると首都機能がマヒ状態になるが、北海道はそれなりに備えがあるので大丈夫だろうと思っていた。

 

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