その後の生活は相変わらず知的美人と同居で時々絡みついてくる知的美人の相手をしてやる程度で比較的落ち着いていた。女土方とクレヨンも何をしているのか生活の中身は分からないが、お互いにうまくやっているようだった。最近は夕食を一緒に摂ったり食後のどちらかの部屋に集まっておしゃべりをしたりもするようになった。それだけ知的美人が落ち着いて馴染んできているようだった。
そんな時、僕は女土方にじゃれ付いたりクレヨンがなついてきたりすることもあった。そんな生活は僕たちにしてみれば日常だったが、世間の感覚ではかなり異常なものなんだろう。でもまあ犯罪でもあるまいし、スタイルの問題なんだからいいじゃないか。そして月一程度で例のビアンバーで羽目を外していた。これは僕たちがそうしたいというよりはママからの要望で月一くらいは立ち寄れという厳命だった。そんな生活をしていても資金はほとんど無尽蔵と言ってもいいほどで僕らが少しくらい羽目を外そうが、かすり傷さえつかない財政的な裏付けもあった。
知的美人とは相変わらず同居の生活で女土方とは離れ離れだったが、僕は時々女土方を帰りに誘ってはホテルに寄っていた。ホテルと言ってももちろんラブホでずっと以前に女土方を強引に引きずり込んだことがあったが、今回は裏通りに面したあまり目立たないところを物色しておいた。まあそうは言っても付近にはちらほら同種のホテルがあるので他人と行き交うことはあるのだが、最近は女土方もさほど抵抗を示さなくなった。まあ回数は月1程度で仕事帰りの時もあれば休日に別々に出かけて落ち合うこともあった。
そんな時、女土方は、「あっちこっちで浮気ばかりして悪い子、お仕置きしてあげるから」とか言って結構マジになって絡んでくることが多かった。僕は別にしたくてこうなったわけでではない。その責任の一端は僕を叩いて知的美人の面倒を見ることを受け入れさせた彼女にもあるじゃないか。まあでもたまに絡んでいれば彼女も何だかんだで満更じゃなさそうでこっちも一安心ではある。
そして外に出るとき、カップルなどと行き交うとやはり中年女性が二人でラブホから出てくるのはかなり衝撃なんだろう。唖然とした表情で見送るのもいた。そう言えば先日、どう見ても70代後半の男性カップルが仲睦まじく手をつないで歩いていた。片方は一目でその手の方と分かる出で立ちでちょっと驚いたが、まあ世の中そういう時代なんだろう。もっとも僕は”I am straight.”ではあるが、・・。
クレヨンはなかなか僕に絡む時間がないのが不満のようだ。たまに女土方と知的美人が外出などでいない時には適当に遊んでやっているが、同じ部屋に四人が集まった時などこれ見よがしにわざと僕に絡みついては濃厚なキスをしたり体を密着させたりして「この人は私のものよ。ちょっと貸してあげているだけだからね。」などと知的美人に絡んでいた。
知的美人は一瞬面倒くさそうな表情をするがあとは例の淡々とした面構えでそんなクレヨンを見ていた。女土方はそんな僕たちを笑顔で何も言わずに見ているだけだった。もしも僕が元の通りの男だったら誰もがうらやむハーレム状態なんだが、見方を変えれば僕自身が女どものおもちゃとも言える。このところ自分の時間と言うものが全くなくなったような状態でさすがにこの状態には鬱陶しいものを感じざるを得なかった。
そんなある晩、絡んできた知的美人を適当にあしらいながら一通りのことを済ますと知的美人はベランダでタバコを吸い始めた。僕は数年前からタバコを止めているのでコーヒーを飲みながら大胆不敵にもタオルを巻いただけでベランダに出て煙草を吸っている知的美人を見ていた。僕がタバコを止めた理由は健康とかそういう問題もあったが、それよりもあまりにもタバコに対する迫害がひどくて吸う場所や時間が制限されまくって面倒くさくなったからだった。
完全に止めるまでの1年ほどはあれこれじたばたしたが、なんとかタバコを断って今はさほどの苦痛もなくなった。タバコを止めると食べ物の味が驚くほどはっきり分かるとかなんでもおいしくなるとか言うが、特にそんなこともなく体重が増えることもなかった。ただ、完全に止めたら半年くらい煤のようなものが出続けた。吸っているときはすべて蓄積していたんだろう。ちょっと驚いたが、まあ、肺の中はきれいになっただろう。でも蓄積されたダメージは残るんだそうだ。それでも他人がタバコを吸っているのを見るとやはり吸いたくなるのは薬物依存の怖さなんだろう。未だに「ああ、いいな。俺も吸いたいな、・・じゃなくて私も吸いたいな」と思うことが結構頻繁にある。
知的美人はタバコを吸い終わって戻って来ると今度は缶ビールを飲み始めた。この女タバコの吸い方もビールの飲み方もなかなか様になっている。『政治家よりもこいつに銀座で店でも持たせれば金持ちのちょいワル親父で大繁盛するのではないだろうか』とかそんなことを考えながら知的美人を見ているとこの女、突然とんでもないことを聞いてきた。
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