「さっきから大きな音がするけど大丈夫ですか」

金融王の声が聞こえた。

「大変申し訳ありません。私が責任を持って行かせますので時間と場所をお願いします。」

女土方はそう言うと時間と場所を普選にメモして僕のおでこに張り付けた。

「分かりました。では後程、・・。大変失礼しました」

女土方はそう言って電話を切った。

「佐山先任、社長に随行して行きなさい。これは命令よ」

うーん、どうして僕はこの女に勝てないんだろうか。クレヨンが「怒られた、叩かれた、ざまあみろ」とはやし立てたのでその辺に吊るしてやろうと思ったらさっと女土方の後ろに逃げ込んだ。

「さあ、支度して行ってきてね。あとで話は聞いてあげるから。あなたは困った人は放っておけない優しい人よ。そう言うところが好き」

女土方はそう言うと「さあさあ、・・」とでも言うように僕のケツを軽く叩いた。女土方は社長に電話をすると「佐山が同行するそうですから時間になったらそちらに行かせます。よろしくお願いします。」と言って電話を切った。

しばらくすると社長から「出かけるので、・・」と連絡が入った。僕は女土方の顔を見たが、女土方は「早く行きなさい」と目でサインを送り返してきた。僕にしてみればそれなり言いたいことはあるのだが、ここで女土方と争うのはお門違いなのでさっさと支度をすると玄関に出た。そして社長の車に拾われて金融王のところへと向かった。

「佐山さん、迷惑ばかりかけてすまないなあ。でも今回のことは僕も予想外だった。まさか彼女がそんな立場の人だったなんて、・・ちょっと驚いた。頭取から電話で話を聞いて最初は信じられなかった。まあ世の中にはいろいろなことがあるものだよな。」

社長はそれとなく僕に状況を伝えようとしているのか、そんな話を続けた。そして大方話し終わるとちょっと間を取った。

「あの、頭取のところに行く前に聞いておきたいんだけど佐山さんは彼女のことをしばらく面倒見てくれる気はあるかな。いや、迷惑と言うことは百も承知している。頭取からも話があると思うんだけどそこを枉げて何とかならないかと思って、・・。

「私は便利屋じゃありません。澤本もそうですけどきちんとした立派な親がついているのにどうして赤の他人の私が面倒見なければいけないんですか。それっておかしいでしょう。両親がいるのなら両親が面倒みればいいことじゃないですか。」

社長は「うーん」と一言つぶやいた。

「そう言われてしまうと僕も一言もないだけど結局みんな佐山さんを頼っているからなあ。こういうのって誰でもいいってわけにもいかないだろう。そこなんだよなあ、問題は、・・。」

確かに言われてみればその通りなんだけど誰もかれもみんな僕に寄りかかってこられてもそりゃ困るじゃないか。僕だって自分の生活があるんだしやりたいこともあるんだ。他人の世話ばかりさせられてたまるか。でも、その時、「あなたがいるのならこのまま続けてもいいわ」と言った知的美人の顔が浮かんだ。あの超強気女のすがるような眼を思い出すとちょっとやはり見なければいけないのかなあなどと思ったりもした。

そんなこんなで結論も出ないまま金融王のところに到着すると玄関先にはもう出迎えが待ち構えていて、そのまま秘書室を抜けるとバカみたいに広くて一生手を触れることもないだろうと思われるような高級家具の置いてある頭取室に案内された。うちの社長室とは泥田とアンドロメダ星雲くらい開きがある。案内役は最敬礼で「ご案内申し上げました」と一言いうとそのまま下がってしまって僕と社長が残された。

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