女土方も僕の剣幕に驚いたようだった。考えてみれば僕自身どうしてこんなに怒りがこみ上げてくるのか分からなかった。ただ体よく困りごとを押し付けられているようでむやみに腹が立った。
その時、電話が鳴った。女土方が出ると「あ、今はちょっと、・。ええ、・・。こちら方電話しますので、・・はい、・・はい、・・分かりました」とこんな具合で切れた。社長に違いないだろう。
するとまた電話が鳴った。今度はクレヨンが出た。「はい、・・なによ。今忙しいのよ、・・大変なんだから、・・。ええ、代われって、・・後でかけ直してよ、お父さん、・・」
それを聞いて電話の相手がだれか分かったのでクレヨンから受話器をひったくるとそれで頭を1回たたいてやった。「ゴツン」とかいう鈍い音がしてクレヨンが頭を抱えて崩れ落ちた。ちょっと叩き方が強かったかもしれない。
「はい、佐山です。」
電話に出ると「今、なんだか大きな音がしたけど大丈夫ですか」と言う金融翁の声が聞こえた。「お前の娘をたたいた音だよ」とは言えないので「ええ、大丈夫です」と答えておいた。「大丈夫じゃないわよ、本当に、暴力女」と言うクレヨンの叫び声が聞こえた。
「そちらの社長からも聞きました。お怒りはごもっともとは思いますが何とかそこを枉げてご同席いただけないかとご連絡を差し上げた次第で、・・。」
「私は皆さんの不都合なことや嫌がることを処理する便利屋ですか。もうたくさんです。今回は当社や私の業務とは何の関係もない個人的なことです。これ以上私がどうこうすることでもなければできることでもありません。」
「おっしゃることは誠にごもっとも、・・しかしながらそこをなんとか、・・」
「考える余地はありません。これ以上は、・・」
さらに続けようとしたところで後ろから受話器を取られて思い切り頭を殴られた。「ゴツン」と言う鈍い音が響いた。振り返ると女土方が受話器を持って立っていた。そしてこれまた相当に怖い顔をしていた。
「みんなが困ってあなたに頼んでいるの。あなたにしかできないことなの。だからあなたに頼んでいるの。分かったわね。行きなさい」
女土方はかなり怖い顔で僕を睨みつけていた。
『こわ、・・』
僕は一瞬たじろいだ。でもここで引いてなるものか。
「あなたは事情を知らないでしょう。今回だけは私はいやよ」
僕も女土方を睨み返したが、やはりちょっと怖くて引き気味になってしまった。
「行きなさい。困っている人がいるの。そしてあなたしか救うことができないんでしょう。だから行きなさい。理屈じゃないでしょう」
ここでほとんど勝負はついたのだが、この際だからもう一度「私はいやよ」と突っ張ってみたらまた受話器で殴られた。今度は「カン」と言う乾いた音がした。この女、どうして僕に平手打ちをくらわせたり受話器で殴ったりするんだ。
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