そんなある日、たまたま仕事の区切りが良かったのでちょっと買いたいものを見に行こうと定時で退社した。女土方に先に出ることを伝えると「めずらしいわね。どうぞ、たまには早く帰って、・・。」と背中を押されるようなことを言われた。クレヨンはそんな僕を羨望のまなざしで見つめながら「いいな、私も行きたい」と言ったが、「あんたは自分の仕事をしっかりなさい」と念押しをしておいた。
 
更衣室に寄って荷物を取って急ぎ足で外に出るとなんと知的美人が前を歩いていた。『ああ、そう言えばぼくらが言葉を交わしている間にさっさと帰ったんだっけ、・・。』と思ったが、今日はそっちの方が目的ではなかったので特に気にも留めずに駅に向かって歩いて行くと先に角を曲がった知的美人がその先で僕を待ち構えていた。

「私に用事があるの」

待ち構えていたように彼女はそう聞いてきた。突然の予想外の出現に僕はびっくりしてちょっと言葉に詰まってしまったが、向こうから出てきたのならこの際長きにわたって引きずっている懸案事項を解決してやろうと思い、一呼吸二呼吸置いてから、

「今日は自分の用事で早く出たんだけどせっかく巡り合ったんだからちょうどいいわ。あなたに聞きたいことがあるの。そちらの都合はどう、・・。」

と聞いてやった。

「ずいぶん前からあなたが私を探っているのは知っていたわ。そちらがいいなら話を聞くわ。どうする、その辺で話す。それとも私の家に来る。」

知的美人は一応選択肢を用意して見せたが、目は『私のところに来なさい』と言っているようだった。

「あなたの家で良いならその方が都合がいいかも。ちょっと込み入った話になるかもしれないから」

僕がそう答えると知的美人は黙って先に立って歩き始めた。そしてそのまま地下鉄に乗ると知的美人の自宅へと向かった。地下鉄に乗っている間はお互いに無言だったので女土方宛に知的美人と遭遇して彼女の自宅に行くことになったことをメールで組んで駅に着いた時に送信しておいた。女土方からはただ「了解」と言う極めて短い返信が来ただけだった。僕も女土方の気持ちを思うとちょっと複雑な気分だった。知的美人は「ちょっと待って」と言って駅の近くのスーパーに寄るとビールやらつまみのようなものやらあれこれ買い込んできた。

「話が長くなると間が持てないし、お腹も空くからね。」

知的美人はらしからぬことを言った。こいつは話の内容を知っているんだろうか。そんなこんなで知的美人のあっけらかんとした飾り気のかけらもない部屋に着いた。

「どうぞ、適当に座って。私はちょっと着替えさせてもらうから。」


そう言うと知的美人は僕の前でさっさと来ていた服を脱いで部屋着に着替えた。


「あなたも着替える。着るものならあるわよ。」


知的美人は僕を振り返った。


「いえ、これで大丈夫」


僕がそう言うと知的美人は、「そうね、あなたって着るものは素っ気ないほど飾り気がないからね」と言って笑った。それから知的美人は台所の方に行くと買ってきたつまみの類を皿に開けてビールと一緒に持ってきた。皿の上にはチーズやサラミ、ポテトチップなどおっさんの飯場会のようなつまみが乗っていた。


知的美人はテーブルの前に胡坐をかいて座るとシックスパックのビールを1本取り出してプルトップを開けて一口飲んでポテトチップをかじって「ああ、うまい」とこれまたオヤジのようなことを言った。そして「あなたも飲めば」と言ってビールを押してよこした。



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