その「女じゃないオーラ」ってどういうものなんだ。でもある意味当たっているかもしれない。実際、僕は体は佐山芳恵と言う女の体だが、中身は全く違う男なんだから、・・・。



「会社の人たちは伊東さんと貴女はビアンだって言うけど、それからあの若い子、なんて言ったっけ、あの子も影響されてビアンになったって、・・。私は違うと思うな。あの若い子はあなたを男として好いているように思うんだけど、・・。」



こいつ、素知らぬ顔をしてさっさと帰るのにどうしてこんなことを知っているんだ。


「ずい分淡々としていると思ったら意外によく聞いているのね。」


ちょっと皮肉ってやったらへらへらと笑っている。


「関心があることはそれなりにね。あなたのことはちょっと気になってね。情報収集はしていたわ。あなたってある日突然性格が変わって男のようになったそうね。何があったの」


「ある朝、目が覚めたらそうなっていたのよ。」


知的美人は「ははは」と笑うとビールを一口飲み込んだ。


「そんなおとぎ話じゃあるまいし、・・」


そう言って一言の下に僕の言うことを退けてしまった。実際そうなんだけどねえ。知的美人はグラスを置くと僕の方をじっと見つめた。僕を値踏みでもするかのように上から下まで舐め回すように見ているようだ。まあ見たければ見せてやろうか。別にどこからどう見ても僕の体は間違いなく女なのだから、・・。


「ねえ、あなたの体見てみたい。」


ほら来たよ。見てみたいってどうするんだ。お手合わせしたいと言うなら望むところだが、あまりそんなことばかりしていてややこしいことになっても困るし、まあ、もうなっていると言えばなっているんだけど、知的美人はビアンではなさそうだし、・・。


「見てみたいってどうするの。私に裸になれって言うの。」


「それならそれでもいいけど、そうしてくれる。」


どうしてお前の好奇心を満たすためにお前の前でこの体をさらさないといけないんだ。無暗に見せるのなら佐山芳恵にも了解を取らないといけないだろう。


「いやよ、そんなの。シャワーも使っていないし、第一あなたに体を見せる理由がないわ。」


「ちょっとからんでみる。私、ビアンじゃないけどあなただったらできそうな気がする。あなた、女をまるで感じさせない。男そのものよ。」


この女は相手がどう思うかなんて全く意識しないのだろう。自分がそうしようと思えばすぐに行動に走るのかもしれない。こういう女は後へ引っ張らないから大丈夫だろうけど何か面と向かって話をしたからと言っていきなりと言うのもはしたない。


「だってまともに話をしたのは今日が初めてでしょう。それでもう、・・なの。情緒も何もないわね。」


知的美人はふふんとせせら笑うように口をゆがめた。


「ずい分と古風なことを言うのね。いいじゃない。セックスなんて好奇心と興味、それに欲望でしょう。したけりゃすればいいと思うけど。ねえ、しようよ。あなたと私でそれがセックスと言えるかどうか知らないけど。あなたに抱かれてみたいの。あなたに興味があるのよ。心も体もね。」


僕は刹那的な快楽とお前の体に対する好奇心しかないけどいくらなんでも今ここでというのはねえ。女土方にもどうしたのかと聞かれるだろうし、・・。


「まあ今度みんなで何か食べにでも行きましょう。けっこう楽しいかも、・・。」


僕はそうして当たり障りのない妥協案を出したつもりだったが、知的美人に一言の下に跳ね付けられてしまった。曰く、「私は室長やあのやかましい若い子には何の興味もないわ。あるのはあなただけ、それは知っておいてね。」


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