「夕べは私たちちょっと変だったのかも。どうしちゃったんだろう。でもまあいいか。」
 
 
 女土方がそうつぶやいた。確かにちょっと変だったのかもしれないが、まあそれはそれでいいのではないだろうか。悪いことをしたわけでもないのだから。
 
 
職場に出勤すると時間ぎりぎりに知的美人が出勤してきた。そして「お早う」と一言挨拶すると仕事を始めた。まあ何ともあっさりとしたお方だ。クレヨンはコーヒーカップを持ったまま知的美人を見つめていたが相手はどうしてそんなものは相手にもしなかった。
 
 
声をかけても必要最小限の事務的な返答だけでそれ以上の会話は成立しなかった。そうして淡々と事務的に仕事をこなして就業時間になると風のように去って行った。仕事はしてくれるんだからそれでいいのだろうがさすがの僕もこの取り付く島のなさにはちょっとばかり辟易だった。
 
 
ところがある日この知的美人にちょっとした変化が起こった。整った顔の眼の下にちょっとした隈が出ていた。僕は、「おや、どうしたんだろう」と思ったが、ちょっとした光の当たりかたで見えたように思った。そしてその後しばらく観察しているとこの美人は小さなしぐさであくびをしたように見えた。そしてその直後立ち上がって席を立つと外に出て行った。どこに行くのかと思ったらトイレに消えた。
 
そしてしばらく戻って来なかった。どうしたんだろうか、お腹でも壊したのか、それとも女の日なのか、しばらく戻るのを注意して見守っていたがいくら経っても戻って来ない。三十分も過ぎたころ様子を見にトイレに行ってみると知的美人様が大きなあくびをしながら個室から出てきた。
 
 
目がとろんとしているのでどうやら中で寝ていたようだった。トイレの個室はそういう使い方もあるのだろうか。すれ違う時に、「どうしたの、お疲れのようね」と声をかけると例の事務的な口調で「ええ、ちょっと睡眠が足らなかったから」と答えてそのまま外に出て行った。
 
 
僕は用足しに来たわけではなかったので少しばかり間をおいてどこに行くのか後をつけて行ったら自動販売機でコーヒーを買うと喫煙室に入った。僕も同じようにコーヒーを買って喫煙室に入った。知的美人はそこで大きくあくびをしながらタバコをふかしていた。
 
 
「何時も機械のように正確に淡々と仕事をこなしているのに今日はちょっとお疲れのようね。大丈夫。」
 
 
知的美人は僕の方を振り返るとちょっといら立った表情を見せた。
 
 
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