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 洗い終わってシャワーで泡を流してやると今度は「私が洗ってあげる」と言って中腰の僕の前に立った。

「背中だけね」

 僕はそう言うとクレヨンに背中を向けた。クレヨンは黙って洗い始めたが、背中を洗い終わると「こっちを向いて」と僕を促した。

「もう十分よ、ありがとう。」

 僕はクレヨンからスポンジを受け取って自分の体を洗い始めた。クレヨンはちょっと不満そうな表情を浮かべたが特に抗弁をするわけでもなく僕から離れると湯船に長く体を横たえた。僕は体についた泡をシャワーで洗い流すと今後は髪を洗った。そして髪を洗い終わるともう一度全身をシャワーで流して「出るわよ。」とクレヨンに言ってそのまま風呂を出た。

 この家の脱衣場には大きなタオルがたくさん置いてあり何枚でも自由に使えるのがありがたかった。僕は髪と体を拭いて着る物を着てからもう一度新しいタオルで髪を拭いた。そしてそのままタオルを首にかけて部屋に戻った。

 暫らくして僕がすっかり髪を乾かし終わった頃にクレヨンが戻って来た。そして寛いでいる僕にタオルを投げつけた。

「もう自分だけさっさと出ちゃって。勝手なんだから。」

 クレヨンは口を尖らせて文句を言ったが、一緒風呂にに残っていたらどうだと言うんだ。いくら広いといってもお手伝いもいるこの家の風呂で女が二人して風呂場で「あーあーうーうー」なんて騒いでいたらこれもかなりの問題だろう。

 ところでクレヨンは結構積極的に僕に絡んでくるが、実際に同性とある程度以上の性的交渉を持つということはやはり抵抗があるんじゃないだろうか。実はもうずい分昔の話になるが、僕はある外国人のゲイの男性と知り合ったことがある。

 勿論その時僕は正真正銘の男性で相手も体に全く人工的に手を加えていないこれも正真正銘の男性だったが、見た感じも話をしてみても男と言う印象はほとんどなくてむしろ女性と言う方がなじみ易いという印象だった。

 僕が優しくしてやったせいかどうかは知らないが、このゲイさんはどうも僕に興味を持ったようでいろいろ手を尽くして接近して来た。それにしても、いくら印象が女っぽくても実際は男なのだから僕の方は一定の距離を取って接していた。

 まあ僕自身には全く責任がないと思うのだが、考えてみると男の頃も女になってもどうも僕の周辺には変なのばかりが寄って来るようだ。

 それでこのゲイさんはけっこうあからさまに「抱いて」という風情でせがんで来た。ゲイさんは見た目も女のようで、しかもそのままでもけっこう美人の部類に入る顔立ちだったので好奇心の強さも手伝ってかなり気持ちが動いたのだが、やはりその先一歩が踏み出せなかった。そんな僕の心の動きはゲイさんにも勿論伝わったようで向こうもそれ以上は迫っては来なかった。

 ある日、何時ものじゃれ合いから僕は好奇心に駆られてそのゲイさんに「男同士はどういうふうにするんだ」と聞いてみた。するとそのゲイさんに「みんな同じことを同じことを聞くのね、じゃあ男と女はどうするの」と逆に聞かれてしまったにはちょっと困ってしまった。

 するとそのゲイさんは「男と女も男同士も女同士もみんな一緒よ、何も特別なことはないわ。何か特別なことをするのかと思うから腰が引けるんでしょう。でも何も変わらないわ。みんな同じよ。」と淡々と言ってのけた。

 そう言われてしまうと何だか納得してしまって引け気味のところに「そんなことを聞くのなら実際にやってみれば良いじゃない」と言われ、その言葉に何となく抗いがたくて「では次にお願いします」という約束をしたのだが、そのゲイさんは突然姿を消してしまった。

 その後、それとなくゲイさんの消息を尋ねたところ不法滞在で警察に捕まって強制送還されたと聞いた。僕は未だにもしもゲイさんが警察に捕まらなかったらどうしていただろうと考えることがある。でももしも彼がそのまま日本にいたら僕は敢えてゲイさんと寝ていたかも知れない。僕は多分そういうことも含めて興味の向くことにはかなり好奇心が強いのだと自分でもそう思う。

 ゲイさんが今何をしているのか分からない。多分もう日本に来ることもないだろうし、僕が彼の国に行くこともないだろう。今会いに行ったとしてもゲイさんは女になった僕などには振り向いてもくれないだろうが、彼は多分女として生まれるべき人間だったのだろう。

 ゲイさんは今で言う性同一性不全という病気だった。どう考えてもゲイさんは体も心もその八割以上が女だったとしか言いようがない。ただ偶然のいたずらで男として生まれてしまっただけなんだろう。それでも僕も結構好奇心を越えたものを持っているのかも知れない。

 それでも女の体になった今でも男に抱かれたいと言う気にはなったことは一度たりとない。ゲイさんに興味を持ったのも女を感じさせるからだったのだろうし今も女にしか興味が湧かないのは僕が正真正銘のヘテロの男という証明なのだろう。そして女好きかもしれない。でも女が好きじゃない男なんているんだろうか。