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 クレヨンはいきなり僕に覆い被さると思い切りキスをしてから濃厚な愛撫を始めた。しかし僕の感覚が男のそれなのか、それとも女としての感覚自体が未発達なのか知らないが、どうにもくすぐったくて暫らく我慢していたものの耐え切れなくなってクレヨンを跳ね除けてしまった。

 クレヨンは自分の愛撫にかなり自信を持っていたようだが、僕が「くすぐったい」と言って跳ね除けると何だか唖然とした顔をして僕を見つめていた。そう言えばくすぐったいというのは一種の快感には違いないらしいのだが、要するに快感としては極めて原始的で未発達なものらしい。そんなことを何かの本で読んだことを思い出した。

 それにしてもちょっと考えても見るがいい。他の男のことは良く知らないが、基本的に男という生き物は積極的に相手にあれこれする方なんだと信じている。だからベッドに横たわって女の愛撫に身を任せて仰け反ったりうめき声を上げている男なんて相当危ない嗜好の持ち主だと思う。でもこれは僕の個人的な感想だから違う意見もあるのかも知れない。

「あんたねえ、いきなり何するのよ。キスくらいなら受けてあげるけどいきなり何の予告もなく体をまさぐられてもくすぐったいだけでしょう。もしもどうしてもというなら私がやってあげようか。でもその前にお風呂に入ろう。一緒に入りなさい。洗ってあげるわよ。」

 これはかなりの部分僕の張ったりもあるのだが、こう積極的にされるとクレヨンも腰が引けるだろうという読みがあった。でも、クレヨンは「そうね、じゃあ支度しようっと。」と言って簡単に受け入れられてしまった。これには僕の方がちょっと戸惑ったが、クレヨンは「大きいお風呂に行こう。」と言って部屋を出た。

 言い出した以上僕も引っ込むわけには行かないので、タオルと下着を持って一階の風呂場に降りて行った。この家の風呂は個人の住宅としてはかなり大きい風呂だと思う。これも主の趣味なのかも知れないが、僕個人は風呂が大きかろうが小さかろうが、風呂と言うのは所詮は汚れを落とす場所と言う感覚なので、大きいことが特にありがたいとは思わなかった。

 脱衣場に入るとクレヨンはもう浴室にいた。考えてみればほとんど赤の他人の家で、結婚するわけでもないその家の娘と一緒に堂々と風呂に入れる身分になろうとは夢にも思わなかった。それが良いのか悪いのかは今以て分からないが。

 浴室に入るとクレヨンは見るからに高級そうなボディソープを洗面器に鱈腹入れて泡立てていた。こいつ、その手の商売をしていたんだろうか。

「さあ、ここに来て。洗ってあげるから。」

 クレヨンは泡をすくいながら僕に微笑みかけた。この際だからやらせるだけやらせてみようかとも思ったが、何となく恥かしかったのと俄か女の不安が未だに払拭出来なかったのでちょっと躊躇っていると「早くここに来て」と催促されてしまった。

 ところで考えて見ればその場の勢いでこうなってしまったが、僕は風呂はいつも一人なので女作法と言うのを良く知らず何時も男の頃と同じ作法で入浴していたんだ。だからここでその男作法が出ないように気をつけないといけない。ただ女も結構唖然とするような大胆不敵なことをするのであまり気にすることもないようだが。

 僕はクレヨンのそばに行くとスポンジを掴んでクリームのような泡を十分に含ませた。そして「ここにおいで」とクレヨンを呼ぶとクレヨンは何も言わずに僕の前に立ったので全身をくまなく洗ってやった。クレヨンは何もいわずただされるがままに立っていたが、うっとりとした表情で決して不快とかそんなことはないようだった。やはりこいつは深刻な愛情不足に違いない。