「コラボを検討出来るようなツアー会社のあてがあるのか。」
「先行する企画の売れ行きはどうか。」
「当面どのような分野を先行させて商品開発を行っていくのか。」等々質問は企画研究どころかもうほとんど商品としての開発あるいは販売が始まるんじゃないかという勢いだった。
「これはまだ今後の可能性を探る研究が始まったばかりの企画です。今後様々な検討を加えて修正していかないと販売どころか商品としての形も成しません。これはまだ私の頭の中から出て来たばかりのまともな企画にもならない素案なんです。」
「素案どころか立派な企画だ。早く商品にまとめて世に出したいものだ。」
ある重役はそんなことを言った。
「ここにはただ案があるだけでカリキュラムもなければテキストもスタッフも受入れ場所も海の向こうまで人を運ぶ方法もコラボする相手先も何も決まっていません。すべてこれから考えていかないと何も動きません。」
この案自体が僕の頭の中から言葉になって外に出たのがほんの数日前なのにそれをすぐに商品として開発しろなんて無茶もいいところだ。それを分かってもらわないといけないので僕は何も出来ていないと言うところを強調した。
「役員の皆さんで旅行関係にコネのある方はいませんか。」
社長が声を上げた。
「私は銀行時代ツアー会社など旅行関係ともお付き合いがありましたが、その中から良さそうな所を当たりますか。」
「実はね、取り敢えず趣味などの方面を少し動かしてみて感触を取るのはどうかなと思うんだが。うちには全く初めての企画なのですべてをまとめるまでには相応の時間がかかるだろう。それでだ、特に採算のよさそうなジャンルを数点選んで試作的な企画を作ってこれを動かしながら計画全体を検討していったらどうだろうか。
そうすれば実際に業務を動かしながら検討するんだから業務に関するノウハウも早く身に着けることが出来るだろうし、問題点の抽出や改善策の検討も容易だ。経理収支などの対応もやり易いんじゃないか。
経理担当が旅行業界につながりを持っているのなら今後コラボレーションを組む相手として適当なところを選別しながら話を持ちかけてみてくれないだろうか。そこそこ面白そうな企画だしうまいところを狙えば発展性もありそうだから乗って来るところもあるんじゃないかな。」
こうして僕の素案程度の企画はあれよあれよと言う間もあればこそ、社長の肝いりで試作品を作って実際に作業をしてみるというまるで飛行機や自動車を開発試作するような方法で行われることに決まってしまった。そしてスタッフは当然今いるメンバーだから気心も知れている代りに力量もそれなりだった。
僕は部屋に帰るとテキストエディターのお姉さんに大まかな状況を話した。そして当然と言えば当然の話だが何よりもまず企画のテーマを決めておかないといけないことも付け加えた。
「急に言われると難しいわね。何を最初のテーマにするかって言われても。英語でと言われるとたくさんありそうで思いつかなくなってしまうわ。リラクゼーションとか環境問題とか自然保護とかペット関係とか。あまり堅くて難しいのもまずいんでしょう。」
テキストエディターのお姉さんは首をかしげた。確かに何でもありとは言ってもこちらで関心が高いもので受け入れ側の選択肢が多いものでないとやり難くそうだった。
「環境問題とペットなんかが面白いかも。後はゴルフ、サッカーなどのスポーツものだけどこれって日本でも出来そうだし業者の数も多くて最初の試作としては面倒かも。
ペット留学とか環境・自然保護留学とかそんなのってあまり数も多くなりそうもないしテーマとしては適当かもね。ただどんなカリキュラムを組むかという問題はあるけど。
後はエステとかリラクゼーションなんかもいいのかも。でも今度は留学期間とか金額の問題もありそうね。資格がどうこうってそんな話も出そうだな。そうか、その辺も決めていかないといけないのね、どのくらいの期間でどんなことをするか、そして結果がどうなのか。
単に楽しみだけの留学じゃあ物見遊山と変わらないものね。でもこんなのそれぞれその道の専門家に聞かないと分からないわ。企画を思いつくのは簡単だけど商品に仕上げるのは大変なようね。」
僕は取り敢えず問題点を書き出してみた。こちらの問題としては、基本的なカリキュラムをどうするのか、期間をどのくらいに取るのか、どんなことを教えていくのか、講習の効果はどのように参加者に還元するのか、お客のトラブル対応を誰がどうして見ていくのか、ちょっと考えただけでも切りがないほどいろいろ問題が噴出してくるがこれはもう旅行社の企画の範疇ではないかと思うことが多かった。
いろいろ考えた末に取り上げるテーマはエステ・リラクゼーション、観劇、文学紀行、キルトなどの手工芸、ペット、自然保護、料理、ゴルフ、乗馬などのスポーツなどの中から旅行社が決定次第これを交えて検討して選択することにした。
僕自身の考えではエステ・リラクゼーション、観劇・文学紀行、乗馬・ゴルフなどのスポーツの三部門で期間は四週から八週、海外での研修生活期間は二、三週間、募集人員は各コース十名程度を考えていた。その根拠と言われても確たるものもないがテーマも一般的かつ手ごろで期間、人員ともこの程度が扱いやすいのではないかという自分の勘程度の思い付きだった。
この線で役員への報告と旅行会社との基本的な打ち合わせに使うための簡単なまとめの報告書を作り終わったのが午後九時過ぎだった。クレヨンは家で来客があるとかで先に帰してしまったし女土方もどうしてもはずせない打ち合わせで外出先から直接帰宅することになっていた。僕には確固たる自信というほどではないがあれが出てくるという確信のようなものはあった。