11月8日~9日は、一泊二日にて、実家の水戸へ行って参りました。
ようやく母のサコージュ(サービス付高齢者住宅)が決まり、そのための荷物を水戸の実家から神奈川へ移動させるためです。
東名から首都高、そして常磐自動車道に乗り継いで、実家に向かう途中、父の墓参りにも行ってきて、バタバタな1日でした(^_^;)
荷物の整理もあらかたできたので、夕方は父が会合で贔屓にしていた料亭「中川楼 本店」にて、コース料理をいただきました。
かつては、横山大観や板屋波山などの文人墨客が贔屓にしていた格式高い老舗鰻屋です。
創業は文政5年(1822年)。創業してからおよそ200年程。
水戸の老舗料亭といえば、山口楼とここ中川楼がツートップ。
今回も、予約必須の格式の高い高級店です。
飛び込みで入れる気軽なお店ではありません。
パリッと和服を着こなした仲居さんに個室のお座敷に通されます。
高い天井、綺麗に磨かれた設え。
BGMはありません。
聞こえるのは、
仲居さんの石畳をしゃなりしゃなりと進む雪駄の踏み音、
たおやかな衣擦れの音。
11月の水戸は肌寒い。
とりあえず熱燗をつけて下さいと注文を。
仲居さん:本日は、どちらからお越しで?
わたし:神奈川から、参りました。
仲居さん:まあ、それは遠くからわざわざありがとうございます。
わたし:いや、ひとりで利用なんか酔狂ですよね(笑)
仲居さん:とんでもございません。お越しいただきありがたく存じ上げます。
わたし:実は中川楼さんは、かつて父がロータリークラブの会合でよく利用していたのですよ。昭和50年代の当時でして。
仲居さん:まあ、昭和50年代といえば、水戸の街も華やかなりし時代でしたね。ロータリークラブ様には、いつも御贔屓にお引き立ていただいておりますよ。
わたし:いえいえ、こちらこそ、佳日はたいへんお世話になりました。その父ですが、10年ほど前に亡くなりまして、母も施設に入ることになりました。今日は、空き家になった実家の荷物の整理と、父の墓参りを兼ねて、参りました。
仲居さん:それはたいへんでしたね。
わたし:ええ、それで今日は、ぜひ一度は、中川楼さんの高い敷居を跨ごうと(笑)
在りし日の父は、家では中川楼さんに行った自慢話ばかりして、その自慢話をヨダレを滴ながら聞いていた肝心の身内は、ついぞ連れて行ってもらったことはなかったものですから……。わたしも四十半ばを過ぎて、もう、ここの敷居を跨いでも、赦されるかなと。
仲居さん:まあ、それはたいへん嬉しく、光栄に存じ上げます。今日はどうぞ、お気持ちをほぐされて、ごゆっくりお寛ぎくださいませ。
……と、三つ指を立てて、古式ゆかしい丁寧なご挨拶をいただきました。
水戸には那珂川から採れる鰻を目玉とした料理屋が多い。
歴史ある高級料亭の出し物も、例外なくふっくらと蒸し焼きにされた鰻の蒲焼きだ。
山椒はもちろん新鮮で、香り高い。
季節の水菓子。
柿、栗のブラマンシェ。
熱燗も三本付けて、これだけいただいて、価格は10000円を割ります。
都内や横浜ならば、軽く15000円くらいは跳ね上がってしまいそう。
自宅の近所にある「うかい亭 本店」なら、ディナーのコースで20000円代半ばあたり、新橋の「末げん」の夜のコースもやはりそれくらいはするから、比較してみると非常にリーズナブル。
格式高い名店の矜持が薫る。
代々磨かれ続けて艶やかな敷居。
しかし接客の在り方は、あくまでも自然体。
さりげない気遣い、気配りが心憎い。
本館は、歴史的和風建築。
代々大切に使われてきた調度品の数々。
しかしそれにしても、家族に自慢話だけしておいて、
自分ばかりこんな良い思いをしていたとは、
……親父は実に生意気だ。
ほろ酔い気分で、そんな思いに更け往く水戸の夜でした。
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ショパン「夜想曲(ノクターン)変ホ長調 作品9-2」。
今日も一日、お気持ち安らかに…。