語り尽くせない思いを 3
人間とは単純なもので
問題の対戦で不正を犯した彼とはそれまでもいろんなことがあって、正直言うと大嫌いな存在でした。
それが昨年のゼウスカップでのある出来事で、少なからず僕の感情には変化が起きていました。
昨年のゼウスはファーストステージの一週間も前から現地入りし、必勝体制で望みました。
日を追うごとに自分の釣りが磨きあげられ、どんどんと仕上がっていく感覚を得られました。
毎日同じ海を見つめ続けたからでしょうか、前日や前々日などは他に大勢いたプラクティス組が感じることのない何かを感じ取れるまでに、心と身体が仕上がったとハッキリと自覚できるまでに至りました。
誰一人として追従できないほどの釣果も毎日出ていたのですが、そんな僕の釣りを見て彼はこう言ったのです。
「今のニシやんには誰も勝てやんな」
人間的には嫌いだとはいえ、トーナメントでの実力はトップクラスだと僕も認めざるを得ない彼の口から、その言葉が出たことは正直嬉しかったです。
しかし僕はファーストステージの最初の試合であっさりと負けてしまいました。
1対0でした。
悔しさや信じられない気持ち、情けなさ、切なくやるせない感情、自分への怒り…
様々な思いにただ涙をこらえるだけの僕に向かって、また彼はこう言いました。
「辛いなあ、ニシやん」
「でもなこれがトーナメントなんや」
「どんなにがんばっても、努力しても、それでどんなに力をつけても、こんなこともあるんがトーナメントなんや」
「だから俺たちは努力するんや」
「後悔も言い訳もせんでええようにな」
全ての言葉が心に響きました。
その時に僕の彼への思いは完全に変わりました。
今までいろんなことがあったけど、そんなこともスーッとどうでもよくなりました。
敵に不足なし。
こいつを倒してやろう。
突如として燃え上がったライバル心を隠すこともできず僕の口を突いて出た言葉。
「絶対あなたに勝って見せる」
それからの一年間は常に自分の釣りをレベルアップさせることを意識して、可能な限りの努力を重ねました。
すべては彼に勝つために。
ファーストステージを勝ち上がり、ファイナルステージに進出が決まった僕は燃えに燃えていました。
あと1つ勝ったら彼と戦える。
前々日から開場入りした僕の釣りは冴えていました。
本番に向けて一年間懸命に仕上げてきた釣りは絶好調でした。
彼との戦いの前には、正木さんという大きな壁がそびえていましたが、それも僕に課せられた試練と受け止めました。
絶対に勝つ
その一念でした。
前日の練習を終え、荷物も車に積み込んでしまったあと、僕は彼に近づきました。
そして言いました。
「明日の第一戦は間違っても負けないで下さい」
「俺も絶対に負けませんから」
「俺はあなたを倒すためにこの一年間、必死でがんばってきたんです」
そして彼は言いました
「死力を尽くして戦おう」
嫌いだけどやっぱり凄いヤツ。
その凄いやつに正面切って堂々と勝負を挑んだことをどんと受け止めてくれた言葉だと思い、感動しました。
相手のことを好きとか嫌いとか、そんなものを超越した男と男の熱い思いのぶつかり合いに心が震えるような気がしました。
それなのに
あの結末になろうとは、このときには想像もできませんでした。
前日にあの会話を交わした僕との試合で、あの卑劣な不正を働くとは。
あんな形で裏切るとは。
彼には僕の気持ちが分かるでしょうか。
どんなに無念な思いをしているのか、彼には想像することができるのでしょうか。
問題の対戦で不正を犯した彼とはそれまでもいろんなことがあって、正直言うと大嫌いな存在でした。
それが昨年のゼウスカップでのある出来事で、少なからず僕の感情には変化が起きていました。
昨年のゼウスはファーストステージの一週間も前から現地入りし、必勝体制で望みました。
日を追うごとに自分の釣りが磨きあげられ、どんどんと仕上がっていく感覚を得られました。
毎日同じ海を見つめ続けたからでしょうか、前日や前々日などは他に大勢いたプラクティス組が感じることのない何かを感じ取れるまでに、心と身体が仕上がったとハッキリと自覚できるまでに至りました。
誰一人として追従できないほどの釣果も毎日出ていたのですが、そんな僕の釣りを見て彼はこう言ったのです。
「今のニシやんには誰も勝てやんな」
人間的には嫌いだとはいえ、トーナメントでの実力はトップクラスだと僕も認めざるを得ない彼の口から、その言葉が出たことは正直嬉しかったです。
しかし僕はファーストステージの最初の試合であっさりと負けてしまいました。
1対0でした。
悔しさや信じられない気持ち、情けなさ、切なくやるせない感情、自分への怒り…
様々な思いにただ涙をこらえるだけの僕に向かって、また彼はこう言いました。
「辛いなあ、ニシやん」
「でもなこれがトーナメントなんや」
「どんなにがんばっても、努力しても、それでどんなに力をつけても、こんなこともあるんがトーナメントなんや」
「だから俺たちは努力するんや」
「後悔も言い訳もせんでええようにな」
全ての言葉が心に響きました。
その時に僕の彼への思いは完全に変わりました。
今までいろんなことがあったけど、そんなこともスーッとどうでもよくなりました。
敵に不足なし。
こいつを倒してやろう。
突如として燃え上がったライバル心を隠すこともできず僕の口を突いて出た言葉。
「絶対あなたに勝って見せる」
それからの一年間は常に自分の釣りをレベルアップさせることを意識して、可能な限りの努力を重ねました。
すべては彼に勝つために。
ファーストステージを勝ち上がり、ファイナルステージに進出が決まった僕は燃えに燃えていました。
あと1つ勝ったら彼と戦える。
前々日から開場入りした僕の釣りは冴えていました。
本番に向けて一年間懸命に仕上げてきた釣りは絶好調でした。
彼との戦いの前には、正木さんという大きな壁がそびえていましたが、それも僕に課せられた試練と受け止めました。
絶対に勝つ
その一念でした。
前日の練習を終え、荷物も車に積み込んでしまったあと、僕は彼に近づきました。
そして言いました。
「明日の第一戦は間違っても負けないで下さい」
「俺も絶対に負けませんから」
「俺はあなたを倒すためにこの一年間、必死でがんばってきたんです」
そして彼は言いました
「死力を尽くして戦おう」
嫌いだけどやっぱり凄いヤツ。
その凄いやつに正面切って堂々と勝負を挑んだことをどんと受け止めてくれた言葉だと思い、感動しました。
相手のことを好きとか嫌いとか、そんなものを超越した男と男の熱い思いのぶつかり合いに心が震えるような気がしました。
それなのに
あの結末になろうとは、このときには想像もできませんでした。
前日にあの会話を交わした僕との試合で、あの卑劣な不正を働くとは。
あんな形で裏切るとは。
彼には僕の気持ちが分かるでしょうか。
どんなに無念な思いをしているのか、彼には想像することができるのでしょうか。