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名曲慰問団のブログ

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 昨日は、各社競作の話題を書いたが・・・「きょうさく」と近いことばとして「盗作」がある。
すなわち、呼んで字の如く「盗む」犯罪行為である。わが国で、レコードの演奏者の権利が認められたのは、大正9年に著作権法の一部が改正されてからである。それまでは勝手に海賊盤を作っても何のおとがめも無かった。そこでレコード会社が頭を悩ませ法改正までに様々な経緯があったのだが、海賊盤問題は、別に記したい。
 
 ところで、わが国の歌謡曲史上でも「これは不味いであろう」というものは古賀政男作曲の「酒は涙か溜息か」をもじり「酒は涙よ溜息よ」と殆ど変わらぬ曲目を発売したり、「東京音頭」オリジナル歌手は三島一声、勝太郎に対して、タイトルはそのままで二島一声、勝丸。という、今では有りえないものまで昭和初期のレコード店には並んでいた。

 殊にこんにちでは著作権法という法律によって保護および権利濫用が提起されている。その著作権法について、難しい話題ではあるが・・・たまには学術的なお話をしよう。

「懐メロ海賊版事件」

 藤山一郎の「青い山脈」や東海林太郎の「赤城の子守唄」などの名曲を著作権者に無断でCDやカセットテープに収録し販売したとして、日本コロムビアなど大手レコード会社
5社が、CD製造販売会社3社と社長1人に対してCDの輸入販売の禁止と在庫の処分、計5500万円の損害賠償を求めた事件。
東京地方裁判所 平成一一年四月一四日判決
(平成一○年(ワ)第一三八七二号 著作隣接権侵害差止等請求事件)
判例集未登載


■ 事実の概要

Yら(被告・CD製造販売会社と社長)は、Xら(原告・大手レコード会社5社)が、昭和初期から20年代にかけて制作したレコードの楽曲を集めて懐メロ集を海外で制作し、それを輸入し頒布した。Xらは、歌手(実演家)から旧法下の著作権を譲り受けており、その権利は現行の著作権法下でも著作隣接権として保護されていて、未だ存在している。したがって、Yらが勝手にXらのレコードから楽曲を複製して頒布する等の行為は、著作隣接権を侵害するとして、損害賠償請求、販売の差止め、在庫の廃棄を求めて提訴した。

■ 判決要旨

(主 文)

「 一 Yらは、コンパクトディスク及びカセットテープを輸入し又は頒布してはならない。
二 Yらは、右コンパクトディスク及びカセットテープを廃棄せよ。
三 Yらは、本件実演の著作隣接権侵害に基づく損害賠償を支払え。
四ないし六 省略
七 この判決は・・・仮に執行することができる。               」

(理 由)

「・・・実演家は、・・・レコード会社である」Xらのために「レコードの吹込みを行い、レコードに吹き込まれた実演に関する歌唱の著作権をレコード会社に譲渡し、レコード会社は実演家に相当額の対価を支払うことを内容とする契約を締結した。」

「Yらは旧法第二二条の七に基づき、右レコードにつき、旧法上の著作権を取得し、これにより・・・実演家は、旧法上の歌唱の著作権を喪失したと主張し、・・・帝国議会議事速記緑を提出するが、同速記録には、レコード会社が旧法第二二の七によりレコードについての著作権を取得することは記載されているが、実演家が旧法上の著作権を喪失することまで記載されていると認められない。同条によってレコード会社が取得する著作権と実演家の歌唱の著作権は、別個の権利であるから、同条により、レコード会社が著作権を取得するからといって、それによって、実演家の著作権が消滅すると解すべき理由はない。旧法下において、レコード会社が著作権を取得しても、実演家の歌唱による著作権は消滅することなく、レコード会社の右著作権と同時に存続するものと解すべきである。・・・」

「弁論の全趣旨によると、別紙記載の実演家のうち、現行法の施行日である。昭和四六年一月一日現在において、既に死亡していた者は、岡晴夫のみであり、その死亡日は、昭和四五年五月一九日であったことが認められる。そうすると、本件実演についての旧法上の歌唱の著作権は、現行法上でも継続していると認められるから、右著作権は、現行法上、著作隣接権として保護される。」

「右著作隣接権の存続期間は、現行法附則第一五条二項により、旧法によるこれらの著作権の存続期間の満了する日が現行法第一○一条の規定による。期間の満了する日後の日であるときは、同条の規定にかかわらず、旧法による著作権の存続期間満了日までであり、現行法の施行から起算して、五○年を経過する日である。西暦二○二○年一二月三一日を超えることはできない。・・・本件実演が行われた年月日は記載のとおりであり、死亡した実演家の死亡年月日は、同記載のとおりである事が認められる。そうすると、本件実演について、旧法による著作権存続期間の満了日は、いずれも、現行法第一○一条の規定による満了の日は、表記載の実演年月日から五○年を経過した日よりも後であるから、本件実演についての著作隣接権は、実演家の死亡日から三○年を経過した日まで継続する(ただし、西暦二○二○年一二月三一日を上限とする)ものと認められる。」

「したがって、別紙記載の実演家のうち生存中である者の実演についての著作隣接権は、存続しており、既に死亡した者の実演についての著作隣接権も、死亡してから三○年を経過していないため、存続していると認められる。」

(解 説)

一 先ず、旧著作権法下に於いても、レコードにはレコードを発売する会社が持つ著作権と実演家(歌手)の持つ著作権と二重の権利がある。前者は、その発売後30年で権利は消滅する。然し、後者の権利は実演家の死後30年まで保護されることになっている。

二 Yらは、実演家(歌手)は、契約に依り彼等の歌唱に関する著作権はレコード会社に譲渡しているので、もはやその時点でレコード会社としての法人著作物となり、歌唱の著作権は消滅しているものと誤信し、然らば、レコード会社の持つ著作権は、発売後30年で消滅することから、既にパブリック・ドメイン(公有)となっていると判断し、SPレコード期の楽曲をCDに収録して発売することは合法であると捉えてCDを制作し、発売した。

三 確かに、レコード会社の持つ権利は既に消滅している。しかし、実演家の権利は死後30年まで保護されるので、こちらの権利は生きていることになる。では、何故実演家やその遺族ではなく、レコード会社が権利者になっているのかというと、当時は専属作家制度をとっており、実演家の権利も契約に依りレコード会社に譲渡されていたのである。従って、レコード会社は実演家の権利を有しているので権利者として訴えた、という訳なのである。

四 ところで、現行の著作権法は昭和四六年一月一日に施行され、歌唱の権利は著作権ではなく、著作隣接権で保護されることになり、この時点で消滅していない旧法下の権利も移行措置として保護されることとなった。新法では演奏・歌唱などの著作隣接権は実演を行ったとき、音を最初に固定したときを起算日とし、その日から五○年を保護期間とするに至った。すると、実演家の死後30年までを保護する旧法下の権利の方が新法下のものよりも保護期間が長くなり優位に立つケースが考えられることになる。そこで、新法では、旧法下の保護期間の最長満了日を新法施行の時点から起算して五○年後の、二〇二〇年一二月三一日としたのである。


■ 「青い山脈」を例にすると・・・。

 ここまで、東京地裁の判例の解説をしながら、SPレコード期の音楽著作権の消滅時期やレコード会社の権利を説明してきたつもりだが、何分にも旧法と新法との移行措置等で複雑な個所であるため、より解かりやすく、「青い山脈」を例に整理してお話したい。

 「青い山脈」の作詞者は西條八十、作曲者は服部良一、歌唱者は藤山一郎と奈良光枝であることは皆様ご存知のとおり。このSPレコードの発売は、昭和24(1949)年3月10日であるから、発売会社である日本コロムビアの権利は、30年後の昭和54年(1979)年3月10日に消滅している。しかし、作家・実演家の権利は生き続けている。

 その作者の権利だが、作詞・作曲家は歌唱する実演家と違い、現行法でも著作権者とされているためその保護期間は死後50年である。すると、西條八十は昭和45(1970)年8月12日に死亡しているので、保護期間の満了は2020年8月12日。作曲の服部良一は、平成5(1993)年1月30日に死亡しているので、保護期間の満了日は2043年の1月30日である。歌唱の奈良光枝は、昭和52(1977)年5月14日に死亡しているため2007年5月14日で保護期間は満了となるが、藤山一郎の場合には、平成5(1993)年8月21日に死亡しており、本来ならば2023年の8月21日が満了日となるところだが、現行法附則第15条2項により旧法下の保護期間の満了日は、2020年12月31日で消滅することとなる。

ここで特にご注意いただきたいのは、著作権法関連の書物を見ても、現行法附則第15条2項により旧法下の保護期間の満了日が2020年12月31日で消滅し、パブリック・ドメイン(公有)となる旨書かれているものを数多く見受ける。しかし、これは実演(歌唱)の権利の消滅時期であり、場合によっては「青い山脈」のように作曲家の権利がこの後も生き続けるケースが考えられるのだ。因みに、服部良一など当時の芸術家は、レコード会社との専属契約に依り、権利をレコード会社に譲渡しており、実質的な権利はレコード会社が有しているのが実情なのである。

従って、「青い山脈」の全ての権利が消滅するのは、服部良一の権利が消滅する2043年の1月30日となるのである。つまり、2043年まで待てばパブリック・ドメイン(公有)となるので、海賊版を作ろうが何をしようが自由となるのであるが、斯く云うわたくしが現在33歳であるから、2043年と云うと53歳になる頃という訳だ。果して、その頃になって漸くSPレコード期の音楽著作権がフリーになったところで、一体どこの誰が聞くのやら・・・甚だ疑問である。


■ 参考文献

・ 「著作権法概説」(第六版)半田正夫 一粒社
・ 「概説著作権法」(改訂版)斉藤博 一粒社
・ 「著作権法概説」田村善之 有斐閣
・ 「知的財産権」(第四版) 小野昌延 有斐閣
・ 「著作権法逐条講義」(改訂新版) 加戸守行 著作権情報センター
・ 「著作権法ハンドブック」著作権法令研究会編著 著作権情報センター
・ 「音楽著作権ビジネス」安藤和宏 リットミュージック
・ 「著作権法の研究」半田正夫 一粒社
・ 「レコードと法」青山学院大学法学部
・ 「音楽と法」青山学院大学法学部
・ 「著作権法判例百選」(第三版)有斐閣 ほか


■ 参考法令

旧著作権法第一条    文書演述図書建築彫刻模型写真演奏歌唱其他文芸学術若クハ美術(音楽ヲ含ム以下之ニ同シ)ノ範囲ニ属スル著作物ハ其著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス

旧著作権法第三条    発行又ハ興業シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間継続ス

旧著作権法第二二条ノ七 音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ他人ノ著作物ヲ適法
ニ写調シタル者ハ著作者ト看做シ其ノ機器ニ付テノミ著作権ヲ
有ス

現行法第五一条二項   著作権は、この節に別段のサダメガル場所を除き、著作者の死後
(共同著作物については、最終に死亡した著作者の死後。次条第
一項において同じ。)五十年後を経過するまでの間、存続する。

現行法第一○一条    著作隣接権の存続期間は次の各号に掲げる時に始まり、当該各号
の行為が行われた日の属する年の翌年から起算して五十年を経
過したときをもつて満了する。
            
一 実演に関しては、その実演を行った時
            ニ レコードに関しては、その音を最初に固定した時
            
現行法附則第一五条二項 前項の規定する実演又はレコードでこの法律の施行の際現に旧法による著作権が存するものに係る著作隣接権の存続期間は、旧
法によるこれらの著作権の満了する日が新法第百一条の規定に
よる期間の満了する日後の日であるときは、同条の規定にかかわ
らず、旧法による著作権の存続期間の満了する日までの間とする。