彼女の前から消え、事務所を辞めると所長に伝える雅喜。
どうして事務所まで辞める必要があるんだと嘆く所長に彼女はここを訪ねて来る可能性がある、と。
弥生と雅喜は事務所の二枚看板で他の従業員とは成功率も比べものにならない。だからこそ雅喜はその成功率を100のままで終わらせたいのだと言う。
雅喜:変な話・・別れさせ屋の仕事に固執してたわけじゃないんです。夢だけ見させて、いずれシャボンの泡のように消える・・その感じがちょっと悪魔的で面白いかなってくらいで
弥生:何か・・言ってることに無理があるように感じるけど
雅喜:ん?
弥生:この仕事に嫌気が差したってのならまだわかるわ。人助けの側面もあるけど、なんだかんだ人を騙すって意味合いの方が高いし・・
所長:そうだよ、お前だって面白いと思ってたんだろ?
雅喜:だから100の成功率に・・
弥生:好きになったんじゃないの?あの子を
弥生:訪ねてきても辞めたことに私たちで口裏合わせすることはできる。その間あんたは休暇でものんびり取ってほとぼりが冷めてから戻る方法だってある。
所長:そうだよ、そうすればいいんだよ
弥生:だけどそれはしたくない。嘘をつきたくないからスッパリ辞めて消えたいのよ。誰につきたくないの~?あの子しかいないじゃない。
雅喜:・・・はぁ、まったく女の勘ってやつは
雅喜:・・嘘から始まる恋なんか・・・長続きしませんよ
弥生:あんたの場合はすでに正体知られてるんでしょ?
所長:そうだよ。別れさせ屋だって三枝さんがバラしちまったんだから
雅喜:本当の俺は・・・・・知られてない・・
事務所を見上げて微笑む雅喜。
そこに、彼を追いかけてきた弥生が現れる。
別れを惜しんでくれる女がいるのは良いと笑う雅喜に弥生はコンビニに行くだけだ、と。
弥生:あの子が訪ねてきたら、あなたが好きだから消えたのよーって言ってあげようかしら。そしたらいつまでも探して、また現れるのを待ってるかもね~
弥生:ふふ、ジョークよ。怖い顔しないで
雅喜:はぁ・・
弥生:けど・・なんかやっぱり腑に落ちないのよねぇ・・
雅喜:・・お前だけに・・本当の理由を教えてやろうか
弥生:ん?
雅喜:俺・・・死ぬんだよ
雅喜:ここに爆弾が仕込まれてんだ
雅喜:ジョークさ。怖い顔すんなよ、ははっ
突然の発言に本当なのか冗談なのかわからない弥生は苦笑いしかできず、彼女の前から去る雅喜を見送ることしかできなかった。
雅喜の前に運ばれてきた馬鹿でかい手作りケーキ。
年に一度の誕生日だから、一人で祝うときもいつもこのサイズなのだとルリ子は言う。
雅喜:それって寂しくない?
ルリ子:そう?あたし誕生日って、誰かに祝ってもらうものって感覚じゃないのかも
雅喜:自分で自分を祝う?
ルリ子:そう。また一年、頑張って生き残ったなーって
雅喜:生き残る?
ルリ子:そうよ。すごい勢いで、きっと大切なものを失ってる時代の中で、自爆しないで生きてるなんて・・生き残るって言葉の方が相応しいと思わない?
ルリ子:私は失わない、削られない。よーし頑張ったーって
雅喜:自分で自分を褒めてあげるんだね
ルリ子:って・・かっこいいこと言ったりなんかしてるけど、そりゃぁやっぱり誰かに祝ってもらえるなら嬉しいよ?
雅喜:そう。
ルリ子:それが・・好きな人なら尚更
雅喜:・・来年は、別の人かも
ルリ子:あっくんのこと知ってるから言われても仕方ないね、次から次へとって
雅喜:・・・冗談だよ。そんな風に思ってない
ルリ子:ほんと?
雅喜:俺じゃなきゃ・・三枝さんと別れても、君はしばらく一人でいたさ
ルリ子:わぉ、言うわね
雅喜:ナンバーワンだからね~
ルリ子:別れさせ屋の?
ルリ子:ていうか・・早く出しなさいよ
雅喜:ん?
ルリ子:さっき見ちゃったの。ポケットに小さい箱があるの
雅喜:・・・・・・
雅喜:はぁ~もうムードねぇなー
ルリ子:これ婚約指輪でしょ?
ルリ子:ちっさ・・
雅喜:違うよ、右手の小指にはめるリング
ルリ子:なーんだ
雅喜:なーんだって、俺たち知り合ってたいして経ってないし
ルリ子:別に関係ないと思うけど?フィーリングだから
ろうそくとランプの灯りだけに照らされた部屋には、雅喜が歌うハッピーバースデーの歌が静かに響き渡る。
雅喜:・・ハッピバースデーディア・・ルリ子ー・・・
雅喜:ハッピバスデー・・トゥー・・ユー・・・
雅喜:・・・ろう・・垂れるよ?
ルリ子:・・・・・あなたは・・・消えないよね?
突然のルリ子の言葉にハッとなる雅喜。
雅喜:・・・そんなに・・
雅喜:・・・・・・・・
雅喜:・・鼻息、荒いの?
ルリ子:・・・・・ばか!
誕生日って誰かに祝ってもらうものってイメージが強いけど、ルリ子の場合は違うんですよね。
「大切なものを失ってる時代で、自爆せずに生きる。削られず、失わず、また1年生き残る」
そんな風に考えたことなんて一度もなかったな。
確かに今の世の中に流されがちで、自分を見失うことだってある。そのせいで大切なものを失うこともある。気づかぬうちに何かを失ってることもある。
人の波にとらわれず自分を貫き通すってすごく大変で難しいけど、きっと大事なことですよね。
18話へ続く。